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映画「そして父になる」は実話?新生児取り違えによる壮絶人生

そして父になる 実話

映画「そして父になる」は、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得した是枝裕和監督が、「ラストマン」「容疑者Xの献身」などの福山雅治さんを主演に迎えた家族ドラマです。

ある日突然、6年間育てた息子が病院で取り違えられた他人の子どもだったと知らされた対照的な2組の夫婦が、過酷な決断を迫られます

それぞれに葛藤を繰り返す中で本当に大切なものを学んでいく姿を丁寧に描き出した本作は、第66回カンヌ国際映画祭で審査委員賞を受賞しました。

今回は、実際に起きた事件と照らし合わせながら、映画「そして父になる」を深掘りしてご紹介します。

映画「そして父になる」は実話?

作品概要
原題そして父になる
製作日本
公開日2013年9月28日
上映時間120分
ジャンルドラマ
監督・脚本是枝裕和
キャスト福山雅治
尾野真千子
リリー・フランキー
真木よう子
二宮慶多
黄升炫
樹木希林

あらすじ

学歴、仕事、家庭といった自分の望むものを自分の手で掴み取ってきたエリート会社員・野々宮良多。自分は成功者だと思っていた彼のもとに、病院から連絡が入ります。

それは、良多と妻・みどりとの間の子が取り違えられていたというものでした。

6年間愛情を注いで育ててきた息子が、他人の子だったと知り、愕然とする良多とみどり。取り違えられた先の雄大とゆかりら佐伯家と会うようになります。

交換か、そのまま育てるのか。血のつながりか、愛情をかけ一緒に過ごしてきた時間か。

心は揺らぐ……。

作品のみどころ

対照的な二組の家族を中心に描かれます。

エリート街道まっしぐらな良多を演じる福山雅治さん。いけ好かない感じの演技が絶妙です。

妻役の尾野真千子さんは優しい子供思いの母親を演じています。笑顔が良いです。

一方の街の電気屋さんを営む雄大役のリリー・フランキーさんは、子供に人気のありそうな気さくな感じが似合ってます。

妻の真木よう子さんは、ちょっと怖そうだけど温かいお母さんを演じています。ウインクには皆んなやられます。

さて、子供にとってはどちらの家族が良いのでしょうか?

裕福で習い事をさせ、将来に不安がなさそうな野々宮家なのか。

けっして裕福ではないけれども、親と子の距離感が近い佐伯家なのか。

親目線で観るのか、子供目線で観るのか

是枝作品の特徴である、どの視点で物語を観るか。その判断は観客に委ねられます。

血で選ぶのか、共に過ごした日々を選ぶのか。一緒にいる時間が長ければ長いほど、その苦悩は深まってしまいます。

映画「そして父になる」は実際に起きた事件を元に作られました。

昭和時代に起きた「新生児取り違え」事件。その多くは、判明するまでに長い月日が掛かってしまいました。

この事件を踏まえながら映画を鑑賞すると、「親子とは何か」を考えずにはいられなくなると思います。

昭和の社会的問題「新生児取り違え」

高度経済成長期の第二次ベビーブームに多発した「新生児取り違え事件」。 

新生児取り違え(しんせいじとりちがえ)とは、新生児が出生直後に何らかの要因で、別の新生児と入れ替わることを言います。

これには過失による事故の場合と、故意による事件の場合がありました。

新生児の取り違えは子供の性別が同じケースがほとんどのようですが、まれに性別の異なる新生児を取り違えるケースもあったそうです。

幼い頃から周囲から似ていないと指摘されたり、成長過程で自分自身が違和感を覚えるなどし、血液検査などで発覚するようです。

なぜ、多発してしまったのか?要因は時代背景にあるようです。

赤ちゃんの取り違えの多くは、1965年から70年代に起こっています。それまでほとんどの出産が自宅分娩でした。それが時代の流れとともに病院などの施設分娩は1955年に17.6%だったのが、65年には84.0%に、70年には96.1%にまで急増しています。

そして1971~74年には第2次ベビーブーム(団塊ジュニア世代)もあり、出産ラッシュで病院の手が行き届かなかったのかもしれません。

「赤ちゃんを抱き上げて運ぶ助産婦」から「沐浴担当の助産婦」への流れ作業といった合理化での間違いや、病院が保有する保育器が足らないため共有していたなどの理由があったようです。

そして父になるの実話モデルは女性

1971年8月、島袋美由紀さんは、沖縄県の同じ病院で生まれた稲福真奈美さんと、取り違えられてしまいました。

小学校入学を前に受けた血液検査で、取り違えが発覚。

まもなく、2人とも6年間の育ての親のもとから生みの親に戻され、それぞれの姓も変わりました。

美由紀さんは「当時は、『私には、お母ちゃんが2人いるんだよ』と言っていました。それがちょっと自慢だったんです」と思っていたそうです。

しかし「沖縄は狭くて、すぐに『あの取り違え事件の?』って同情される。でも東京には私の過去の知人はいない。それでホッとできたんです」

高校を卒業すると美由紀さんは沖縄を出て、東京の大手量販店に就職しましたが、10年働いた頃、実の父親が脳梗塞で倒れ、沖縄へ戻りました。連絡をくれたのは育ての母親、スミ子さんでした。

その後、美由紀さんは育ての親が経営する会社の敷地内でマッサージ店を開業します。

そういった経緯から美由紀さんは家業を手伝う育ての親の子である真奈美さんと交流ができ、実の姉妹のように助け合うようになったそうです。

美由紀さんの育ての親のスミ子さんはこう語りました。

「取り違え事件は、神様が私に、2人の女の子を育てなさいと与えてくれたものだと思うんです」

実際には様々な葛藤があったと思われます。しかし、時が流れ、本当の家族のようになったのは、血だけではない愛情が芽生えたということでしょうか。

そして父になるが実話ではと言われる「ねじれた絆」とは

映画「そして父になる」のエンドロールで参考文献と紹介された「ねじれた絆」。

第二次ベビーブームだった高度経済成長期に多発し、社会問題とまでなった「赤ちゃん取り違え事件」を題材にしたフリージャーナリスト・ノンフィクション作家の奥野修司さんのドキュメンタリー作品です。

1971年に当時米国施政下の沖縄で実際に起きた赤ちゃん取り違え事件を、日本施政下に入れ替わった後の1977年の発覚から、実に25年間取材し続けたそうです。

2004年(TBS)と2013年(フジテレビ)の二度テレビドラマ化されています。

2004年版はドラマとして製作されましたが、2013年版は、取り違えられた当事者たちへのインタビューを基にしたドキュメント部分と、事件発生から2つの家族の生活を忠実に追ったドラマ部分で構成されるドキュメンタリードラマとして製作されました。

これまで当事者たちは全て仮名でテレビ出演をしてきましたが、この時に初めて2つの家族が実名で顔出しをし、思いを語りました。実力派俳優たちが演じたドラマ部分でも実名が使用されています。

私たちはいろんなことを乗り越えてきて今は幸せなんだということをぜひ、伝えてほしい」という思いで初めて、実名で顔を出しての出演を決意したそうです。

「取り違え事件発覚の時はいろいろあったけれども、あれから35年が過ぎ、今は全員が等しく幸せなんです」と家族の皆さんはおっしゃったそうです。

様々なことを乗り越えた絆があるようです。

参考文献:奥野修司「ねじれた絆――赤ちゃん取り違え事件の十七年」

題名ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年
作者名奥野修司
カテゴリ小説・文芸
ジャンルノンフィクション/ドキュメンタリー
出版社文藝春秋
発売日2002年10月(電子版2013年9月20日)
参考価格880円

昭和52年、沖縄で起きた赤ちゃんの取り違え事件を奥野修司さんが克明に追ったノンフィクションです。

小学校にあがる際の血液検査で、出生時の取り違えがわかった二人の女の子。他人としか思えない実の親との対面、そして交換。「お家に帰りたいよう」子どもたちの悲痛な叫び――。当時、女性誌の記者としてこの事件を取材した著者は、その後十七年にわたって二人の少女と家族を追いつづけ、この驚くべき作品を書き上げました。「家族の絆」とは何かを深く考えさせる傑作です。(「BOOK」データベースより)

ノンフィクション作家 奥野修司 略歴

1948年大阪府生まれ。ノンフィクション作家。

立命館大学経済学部卒。1978年から南米で日系移民調査をし帰国後女性誌などで、フリー・ジャーナリストとして活動しています。

1998年「28年前の『酒鬼薔薇』は今」で第4回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム受賞。

2006年「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で第27回講談社ノンフィクション賞・第37回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

2014年度より大宅壮一ノンフィクション賞選考委員(雑誌部門)。

「ねじれた絆〜」では25年、「ナツコ〜」では12年と、長期にわたって取材を行った作品が多い作家です。

現代でも起こってしまう「新生児取り違え」の理由とは

現在の日本では、分娩室が別れ、タグをつけたり、体に直接名前を書くなど防止策を徹底しているため、新たな取り違えはほぼ無いに等しいです。

しかし海外の発展途上国や多様文化の国にはまだある話のようです。特に白人の子どもは一番高価とされていて、この場合大抵は白人とそうでない肌の色を持つ赤ちゃんが「取り違え」の標的になり、病院側もグルになってしまっている場合も多いそうです。

2015年、エルサルバドル共和国で新生児取り違い事件が起こりました。

エルサルバドル共和国では新生児が誘拐された場合、疑われるのが人身売買だそうです。そのため、取り違えに気がついた新生児の両親リチャード・カシュワースさんと妻メルセデス・カサネラスさんは、我が子の行方と人身売買の心配に苦しみました。

子供の違いに気が付いたのは妻のメルセデスさんであり、産んだ直後は白い肌の赤ちゃんでありましたが、「あなたの子です」と病院から手渡された赤ちゃんの肌が、夫婦からは想定できない褐色であったため不審に思い始めたそうです。

思い返してみると、医師が「パパがたとえ白人でも、赤ちゃんが褐色の肌になることはよくあるのですよ」と繰り返して言っていたこと、産後間もなく枕元に麻酔専門医が来て「神経が過敏になっている」と言い、処置として何かを投与されると大変長い時間眠りに落ちていたなど、不審な言動があったようです。

実際に眠りから目が覚めたときには取り違えが発生しており、看護師に確認しても問題ないとの返答で、病院ぐるみでの犯行を疑うようになります。

その後、DNA鑑定などにより、別の夫婦に渡されていたことが判明、担当医師は逮捕されました。(容疑を否認して保釈金を支払い保釈)

赤ちゃんは無事に戻りましたが、もし、本来の子供が戻らなかった場合は、今いる子供に愛情を注ぐつもりであったと話をしていたそうです。

この後、エルサルバドル共和国の当局は、再発防止のため、全土の病院に手順の見直しを指示しました。

まとめ

まとめ

現在の日本では新たに起こりにくくなった新生児取り違えですが、ベビーブームの頃の日本全国では当人が気付いていないのも含め、500件程度あったのではと推測されています。

血なのか、共に過ごした日々なのか。

様々な葛藤の中、新たに作られた絆もあるようですが、どちらが正解だったかは誰にも答えを出すことができません。

家族とは何かを描き続けている是枝監督ですが、我々観客に家族について強烈に問いかけてきます。

絆とは何か。

是枝作品を観て、みんなで家族像について話し合ってみるのもいいかもしれませんね。

まとめ
  • 「そして父になる」は新生児取り違え事件が元になっている
  • 当事者は色々なことを乗り越えて、今を生きている
  • 外国ではまだ取り違えられてしまう可能性がある

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