第76回カンヌ国際映画祭にて脚本賞を受賞した話題作の「怪物」。
監督の是枝裕和さんは、これまでも2018年のカンヌで「万引き家族」がパルムドールを受賞したのを始め、先程の「怪物」、2022年には「ベイビー・ブローカー」で主演のソン・ガンホさんが優秀男優賞を受賞するなど、すっかりカンヌの賞レースの常連ですね!
今回は是枝監督作品にあまり触れてこなかった方のために、評判の良かった作品をご紹介します。
受賞したヒット作から、興行的にはヒットしなかったけれども評価の高い作品も交えてますので、ぜひ参考にしてみてください!
是枝裕和のおすすめ映画ランキング
是枝監督は、これまで劇場作品を17本監督しています。
2004年に「誰も知らない」で多くの人に認識されましたが、作風からか単館系の作品が多く、作品の評価と興行収入が乖離する時期が続きます。
映画の興行収入は、配給会社の力量とも関係が小さくないそうで、当時の是枝作品は主にシネカノン(10年倒産)という小さい会社で配給されていたことも関係あるのかもしれません。
しかし、転機が訪れます。
フジテレビが関わった「そして父となる」(14)は劇場数が増え、再びカンヌで受賞し、以降は一気に注目度が上がり、是枝監督は日本を代表する監督になりました。
その後は「真実」ではフランス、「ベイビー・ブローカー」では韓国でメガホンを取るなど、活躍を世界へと舞台を移しています。
現在公開中の「怪物」では再びカンヌで受賞、その効果もあり大ヒット中です。
「怪物」についてはこちらにまとめています。
映画「怪物」はホラー要素なし!映画評価レビュー是枝裕和(映画監督、脚本家、映画プロデューサー)
是枝裕和の映画作品
作品名 | 公開日 | ジャンル | 評価 |
---|---|---|---|
幻の光 | 1995年12月9日 | ドラマ | 3.1 |
ワンダフルライフ | 1999年4月17日 | ファンタジー | 3.4 |
DISTANCE | 2001年5月26日 | ドラマ | 2.9 |
誰も知らない | 2004年8月7日 | ドラマ | 4.0 |
花よりもなほ | 2006年6月3日 | コメディ/時代劇 | 3.5 |
歩いても歩いても | 2008年6月28日 | ドラマ | 4.0 |
大丈夫であるように-cocco 終わらない旅- | 2008年12月13日 | ドキュメンタリー | 3.7 |
空気人形 | 2009年9月26日 | ドラマ/ロマンス/エロティック (R15+) | 3.9 |
奇跡 | 2011年6月11日 | ドラマ | 3.6 |
そして父になる | 2013年9月28日 | ドラマ | 3.6 |
海街diary | 2015年6月13日 | ドラマ | 3.8 |
海よりもまだ深く | 2016年5月21日 | ドラマ | 3.9 |
三度目の殺人 | 2017年9月9日 | サスペンス/ミステリー | 3.6 |
万引き家族 | 2018年6月8日 | ドラマ (PG12) | 4.1 |
真実 | 2019年10月11日 | ドラマ | 3.4 |
ベイビー・ブローカー | 2022年6月24日 | ドラマ | 3.4 |
怪物 | 2023年6月2日 | ドラマ/ミステリー | 3.8 |
映画ランキングの評価基準
そんな是枝監督作品にまだ馴染みがない方のために、Yahoo映画での上位3作品をKINENOTE、映画.com、Filmarks、IMDbなどの映画レビューサイトでの採点も含めて総合的に、SNSでの評判も加味しておすすめランキングをご紹介したいと思います!
1位 万引き家族
タイトル | 万引き家族 ☆第71回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞、日本アカデミー賞8部門受賞 |
公開日 | 2018年6月8日 |
上映時間 | 120分 |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 是枝裕和 |
音楽 | 細野晴臣 |
出演者 | リリー・フランキー 安藤サクラ 樹木希林 松岡茉優 城 桧吏 佐々木 みゆ |
興行収入 | 45.5億円 |
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋。
そこに治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。
彼らの目当ては、この家の持ち主である祖母の初枝の年金だ。それで足りないものは、万引きでまかなっていた。社会の底を這うように暮らす家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、口は悪いが仲よく暮らしていた。
そんなある日、治と祥太は、近隣の団地の廊下で震えていた幼いゆりを見かねて家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく──。
盗んだのは、絆でした
既に死亡している親の年金を、家族が不正に受給していた事件から着想を得たと言う本作。
貧困家庭や社会の最底辺を描こうとか、そういった意図はなく、むしろ、そこにかろうじて転がり落ちないように集まった「家族の絆」を描こうと思ったそうです。
それぞれが抱えた孤独を隠すように集まり家族を構成する様は、滑稽のようでありながら、笑いの絶えない姿に本当の家族よりも幸せな瞬間があったのかもしれないと思ってしまいます。
いったい彼らは何を欲していたのでしょうか。観る者の視点、誰に感情移入するかによって、家族だったのか、愛情だったのか、見え方が変わってきます。
カンヌでパルムドールを獲得した効果は抜群で、興行収入45.5億円は是枝作品ではダントツ。ドキュメンタリー出身の是枝監督の本領発揮と言える、社会へ投げかける作品となりましたが、多くの人の心に刺さりました。
採点、レビュー
KINENOTE(100点満点) | 80.5点 |
映画.com(5点満点) | 3.8点 |
Filmarks(5点満点) | 3.9点 |
IMDb(10点満点) | 7.9点 |
法では許されないことかもしれませんが愛情面では許したい
最終的には皆どうなったのか。討論会は間違いなく徹夜になるだろう
家族ってなんだろう
是枝監督、「海街diary」も「そして父になる」も「万引き家族」も「怪物」も、ぜんぶ血縁による絆の幻想を解体しようとしていて、そうじゃないところにいる人を照らそうと頑張ってると思うんだけど、いまいち映画ふだん観ない人にそこまで伝わってない気がする。
— じゅぺ (@silverlinings63) June 20, 2023
多分だけど、万引き家族って家族の絆みたいなものの価値観を壊そうとしているというか、この前提を問う作品だよな
— 有 (@saq_vv) June 21, 2023
日本社会の根本的な問題は孤独だ。万引き家族が描いていたのはそういうことだろう。日本に最終的には血縁共同体はない。友人もない。地域共同体もない。制度の歪つなハッキングだけがかろうじてある。だからこそ作品内では擬似家族が輝いて見える。そんなにまで孤独な社会があるだろうか
— פנים (@sdqlp) June 20, 2023
何を盗んだのかではなく、何が欲しかったのか。
「父ちゃんさぁ、おじさんに戻るよ」
どこで社会から溢れ落ちてしまったのか。これまでも、これからも本物を手にすることができないセリフだと思いました。しかし、子供らにとっては良い「父ちゃん」だったような気がしてなりません。
2位 誰も知らない
タイトル | 誰も知らない |
公開日 | 2004年8月7日 |
上映時間 | 141分 |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 是枝裕和 |
音楽 | ゴンチチ |
出演者 | 柳楽優弥 ☆第57回カンヌ国際映画祭 最優秀男優賞受賞(史上最年少及び日本人初) 北浦愛 木村飛影 清水萌々子 韓英恵 YOU |
興行収入 | 9億2300万円 |
都内の2DKのアパートで大好きな母親と幸せに暮らす4人の兄妹。
しかし彼らの父親はみな別々で、学校にも通ったことがなく、3人の妹弟の存在は大家にも知らされていなかった。
ある日、母親はわずかな現金と短いメモを残し、兄に妹弟の世話を託して家を出る。この日から、誰にも知られることのない4人の子供たちだけの『漂流生活』が始まる….。
生きているのは、大人ですか?
本作品は、88年に実際に起こった「西巣鴨子供4人置き去り事件」をモチーフにしているそうです。
父親が蒸発後、母親も4人の子を置いて家を出ていき、金銭的な援助をしていたとはいえ、15歳の長男が妹たちの面倒を見ていたと過酷な事件。無責任な母親を叱責する報道が乱立していたそうですが、是枝監督は「お兄ちゃんは優しかった」という子供たちの証言に注目しました。
今の言葉でいうネグレクト、ヤングケアラーに該当し、悲惨としか思えない子供たちだけの暮らしの中にも、視点を変えると幸せな時間が流れていたのかもしれません。
キャッチフレーズの「生きているのは、大人ですか?」は子供に負わせるべきではない責任を端的に表しています。
「目に力がある」と主演に抜擢された柳楽優弥さんの演技には注目、史上最年少でカンヌ映画祭で主演男優賞を獲得しています。
是枝監督の視点は、ドキュメンタリー出身ということもあり、社会に切り込みます。それと同時に我々にも一方的な正義の目線だけではない、他の視点がある、ということにも気付かせてくれます。
採点、レビュー
KINENOTE(100点満点) | 79.1点 |
映画.com(5点満点) | 3.9点 |
Filmarks(5点満点) | 3.8点 |
IMDb (10点満点) | 8.0点 |
重い題材を扱っているはずなのに、子供達の生活を重く描いていないところが是枝監督っぽい
不幸は人が決めるものではない
「誰も知らない」を観た。
— ✩.*˚ゆう 映画/ドラマ好き❤︎.*✩.*˚ (@yut812) June 21, 2023
実話をもとにした作品。是枝さんらしく、家族のお話。不遇。
無知、調教、母への思い。全てがやるせない。苦しかった。
こんなことがない世の中になったらいい。そのためには…そこから先は自分で考えて行動しなきゃと言われているみたいだった。
是枝監督の「誰も知らない」
— こうちゃ (@c_ieam) June 17, 2023
誰にも知られず、ずっと解答なんて出ない閉塞感。
終わりへのカウントダウンが続く。
子役の子たちの自然さが良かった。
子供を育てることの責任。
ホント是枝監督は容赦無いからね……最初にカンヌ獲った『誰も知らない』とかもマジで凶悪。
— みかげ (@mikage_rabukage) June 18, 2023
当然、監督自身は作中扱われる問題に批判的なんだけど、それはそれとして視線や描写、対象との距離感がメチャクチャ冷徹なんよな。
この作品は柳楽優弥さんが注目を浴びがちですが、実は母親役のYOUさんも独特の存在感で良いです。
(YOUさん本人が語ったところによると、是枝監督がテレビを見ていて「いかにも育児放棄しそうなキャラクター」という直感からオファーされたそうです)
母親を責めることは簡単ですが、子供の視点に立った時に見え方が変わる、是枝作品の特徴が発揮されていると思います。
3位 歩いても歩いても
タイトル | 歩いても歩いても |
公開日 | 2008年6月28日 |
上映時間 | 114分 |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 是枝裕和 |
音楽 | ゴンチチ |
出演者 | 阿部寛 夏川結衣 YOU 高橋和也 田中祥平 樹木希林 原田芳雄 |
興行収入 | 3億3000万円 |
夏の終わり、横山良多は妻と息子を連れて実家を訪れた。開業医だった父とそりのあわない良多は現在失業中のこともあり、ひさびさの帰郷も気が重い。明るい姉の一家も来て、老いた両親の家には久しぶりに笑い声が響く。得意料理をつぎつぎにこしらえる母と、相変わらず家長としての威厳にこだわる父親。ありふれた家族の風景だが、今日は、15年前に亡くなった横山家の長男の命日。何気ない会話の中に、それぞれの思いが沁み出していく……。
いつも、ちょっとだけ間に合わない
ちょっとだけ早く声かけてれば。
老いた母親がつぶやいたセリフです。
あーあ、いつもこうだ、ちょっと間に合わないんだ。
主人公がつぶやいたセリフです。
親子のやり取りはこんな感じの積み重ねが多い気がします。そんなことないとわかっているのに、いつまでもいると思うから、後回しにしてしまう。
是枝監督はインタビューで母親が亡くなった時、何もしてやれずほったらかしにしていたという後ろめたさがあったと語っています。母親に関連したことや母親が家にいる情景を形にして残しておきたくなったことがきっかけで、この作品を撮ったそうです。
幾重もの感情が浮かび上がる家族の風景を描いた会話劇です。
採点、レビュー
KINENOTE(100点満点) | 77.2点 |
映画.com(5点満点) | 3.7点 |
Filmarks(5点満点) | 3.9点 |
IMDb(10点満点) | 7.9点 |
大人になればなるほど、こういう家族の会話でできている映画が沁みる
会話劇にのめり込んであっという間に終わった
こんだけ説明省いてるのに俺を飽きさせないなんてやるね
是枝監督の作品は「歩いても 歩いても」が1番好き。
— 四国山 (@shikokuyamayama) June 21, 2023
わかる気がする。>rt
— ゆうこ@大型アーサー (@yukoff_777) June 21, 2023
是枝監督の「歩いても、歩いても」観た時じぶんちみたいだなあてめちゃくちゃ思った記憶ある。
昔は『歩いても〜』より『海よりも〜』のほうが好きだった気がするけど、わいの価値観が変わったのか年齢のせいなのか前者のほうが響くものがあった。
— 😶🌫️ (@485701) June 21, 2023
家族の仲は悪くないですが、妙に距離感が難しいなと感じる時があります。照れなのかなんなのかわかりませんが。
きっとどこの家族にもありそうな、その微妙な空気感を絶妙な感じに是枝監督は上手に作品として撮られたと思います。ジャンルは「距離感」で良いんじゃないかと思うくらいです。
孝行したいときには親はなし。わかっちゃいるけどさぁというのがこの映画の感想です。
でも次、実家に帰ったら優しくしようかなとは思います。
個人的には40代になって、久々に鑑賞したら一番感情移入できる是枝作品になりました。
家族の絆を描いた作品から観るべき
高得点の作品をまとめてみましたが、家族を描いているのが共通していました。血の繋がり、心の繋がり、親子の関係。
また、是枝監督は子役の使い方がとても上手く、今回取り上げた3作だけでなく、現在公開中の「怪物」でも子役の好演が光ります。
カンヌで受賞するジャンルはエンタメ要素が強い作品より、アート系の作品が好まれることが多いのが事実です。
しかし、今回取り上げた作品のうち2つはドキュメンタリー出身の是枝監督らしい、社会に訴えかけるようなストーリーでしたが、漫画が原作の「海街diary」やちょっと変わったモチーフの「ワンダフル・ライフ」や「空気人形」など、バラエティに富んでいます。
是枝作品は決してとっつきにくい作品だけではありませんので、ぜひ、お気に入りの1本を見つけてみてください!
- ドキュメンタリー出身だけあって、社会に訴えかける作品が多い
- 家族の絆を描いた作品が高評価
- 子役の演技が良い作品が多数