怪物だーれだ。
映画「怪物」は、「万引き家族」などの是枝裕和監督が、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一とのコラボレーションで、世に送り出した話題作です。
予告での不穏な雰囲気や、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞など注目の一作ですが、実際はどのような作品なのでしょうか?ネタバレをギリギリぼかしながらご紹介します。
※勘の良い人は、ぜひ鑑賞してからお読みください!
映画「怪物」作品概要
タイトル | 怪物 |
公開日 | 2023年6月2日 |
上映時間 | 126分 |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 坂元裕二 |
音楽 | 坂本龍一 |
キャスト | 安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 田中裕子 |
是枝裕和監督の最新作は、豪華コラボレーション、実力派俳優たちと純粋な子役たちの化学反応で、とても見応えのある作品になっています。
怪物とは一体何なのか。
第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した本作は、観る者の視線によって様々な解釈ができます。
多様性の時代に、向き合うことを求められる作品です。
是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一のコラボレーション
「万引き家族」でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が「今一番リスペクトしている」と語る脚本家の坂元裕二さんと初タッグを組みました。是枝監督にとっては、デビュー作の「幻の光」以来、自身が脚本しない一作になるという珍しい作品になりました。
坂元さんも是枝監督に対し「憧れの存在であり、大好きな映画監督。脚本家としての是枝さんも尊敬している」と表現するなど、お互いのリスペクトから共同作業が実現しました。
また、音楽は「ラストエンペラー」や「レヴェナント:蘇えりし者」などで海外でも第一線で活躍した坂本龍一さんが担当。奇跡のコラボレーションが実現しました。
1962年6月6日、東京生まれ。2014年に制作集団「分福」を立ち上げる。
1995年「幻の光」で監督デビューし、「誰も知らない」(04)「そして父になる」(13)など、数々の作品を手がけています。2018年の「万引き家族」は第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、その他多くの映画賞を受賞しました。
1967年生まれ、大阪府出身。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。
主な作品に「それでも。生きてゆく」「最高の離婚」「Mother」「Woman」「カルテット」「大豆田とわ子と3人の元夫」などがあります。圧倒的な人気を博し、新作が待ち望まれる脚本家です。
1952年、東京都生まれ。1978年にYMO結成。
YMO散開後も多方面で活躍し、映画「戦場のメリークリスマス」(83)で英国アカデミー賞を、映画「ラストエンペラー」(87)の音楽ではアカデミー賞作曲賞、グラミー賞などを受賞しました。主な映画音楽作品に「シェルタリング・スカイ」(90)、「ファム・ファタール」(02)、「レヴェナント:蘇りし者」(15)、「MINAMATAーミナマター」(20)などがあります。
撮影は長野県諏訪地方で行われました。決め手は諏訪湖の存在で、是枝監督は「全体を貫くテーマと湖を重ねてみようと思った」と述べています。それと同時に、描かれる脚本に風景が明快になり、夜の湖に坂本さんのピアノが響けばいいなと感じたそうです。映画の編集をしながら、坂本さんの曲を仮当てし、それを手紙に添えてオファーしたそうです。
すぐに坂本さんから「全部を引き受ける体力は残っていないけれど、観させていただいたら、とても面白くて、音楽のイメージが何曲か浮かんでいるので形にします。気に入ったら使ってください」と返事が来たそうです。
最終的には新曲二曲と新アルバム「12」からの楽曲が使用され、そのほかにも過去の曲が使用されています。
坂本龍一さんは2023年3月28日に他界され、本作が手がけた最後の映画劇伴となりました。
映画初出演の2人の子役の演技に注目
物語の重要な役割を果たすのが2人の小学生です。
黒川さんと柊木さんは、ともテレビドラマでキャリアをスタートさせ、順調に出演を重ねていました。今回、2人とも初の映画出演ということでしたが、とても純粋な演技を披露してくれています。
これから多感な時期を迎えるであろう小学生高学年の揺れ動く感情。
親から受ける愛情、例えそれが歪んでいたとしても、素直に受け取ってしまう危うさ。
この気持ちは友情なのか、それともー。
そんな難しい役柄を、2人は等身大かつ透明感のある演技で、観客を物語に引き込んでくれます。
2009年、埼玉県出身
2018年「トーキョーエイリアンブラザーズ」で俳優デビュー。テレビドラマを中心に出演を重ねる。その他の出演作に「緊急取調室」(18)、「ほんとにあった怖い話」(19)「きよしこ」(21)「剣樹抄〜光圀公と俺〜」など。
☆是枝監督からは横顔のラインが良いと褒められています。
2011年、京都府出身
2021年「ボクの殺意が恋をした」でデビュー。その後「最愛」(21)、「ミステリと言う勿れ」(22)と3クール連続でドラマ出演を果たすと共にNHK連続ドラマ小説「カムカム・エブリバディ」にも出演。話題作への出演が続いている。
☆是枝監督は会った瞬間にこの子だと思ったそうです。
あらすじ
大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、学校を愛する校長、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
何かがおかしい。
彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。
怪物だーれだ。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消したー。
予告はホラーを想像させる内容
映画「怪物」の予告はご覧になりましたか?
筆者は是枝監督というだけで、予告はおろか、出演者すらチェックせずに鑑賞をしたので、後になって予告を観ました。
印象全く違うじゃん!!!!
というのが率直な感想です。
予告ですと、サスペンス感満載で、ひょっとしたらホラー系?なんて想像を掻き立てられます。
しかし、そこは是枝作品。単純に一括りできるジャンルでもなく、深みのある人間ドラマとなっていました。
予告の印象で、面白そうと感じた人には、少し注意が必要かもしれません。
映画「怪物」はホラー要素なし!カンヌの国際評価基準の映画になっている
映画「怪物」は、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を坂元裕二さんが受賞しました。
是枝監督の作品がカンヌで受賞するのは「誰も知らない」(04)で主演の柳楽優弥さんが最優秀男優賞、「万引き家族」(18)でパルムドール、「ベイビー・ブローカー」(22)でソン・ガンホさんが男優賞とカンヌでの賞レースの常連と言えそうです。
「怪物」も予告ではホラー要素がありそうな、ひょっとしたらエンタメ要素が強い作品なのでは?と感じる方がいたかもしれませんが、決してそんなことはなく、今の多様性を重視するメッセージが込められた作品になっています。
カンヌでは、作家性の強い作品が評価される傾向にあるようです。そのため、例えば2016年〜2019年のパルムドール作品は偶然でしょうがテーマが共通しています。
「わたしはダニエル・ブレイク」(16)「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(17)「万引き家族」(18)「パラサイト」(19)
いずれも「貧困」と「格差社会」がテーマになっていました。多くの映像作家たちが、共通の問題認識でいたのかもしれません。世界の情勢を鑑みると、今後は多様性や平和をテーマにした作品が受賞傾向になるのかもしれません。
映画を観た筆者の評価(少しネタバレあり)
まず、この映画に出演された俳優の皆さん、本当に素晴らしかったです。
安藤サクラさんの息子を見つめるときの目の揺らぎ。
永山瑛太さんの掴み所のなさ。
田中裕子さんの生気のない眼。
特に子役の黒川想矢さんと柊木陽太さんの透明感のある演技にはとても感動をしました。
そして、この映画はとにかく美しかったです。
残念ながら遺作となってしまった坂本龍一さんのピアノの響きは、少年2人を優しく包み込んでいました。
是枝監督が湖を物語に重ねてみたかったと述べていたとおり、その美しい景色には見惚れてしまい、セリフを聞き逃してしまったほどです。
しかし、私は素直に良かったと思えないまま劇場を後にしました。
言葉だけではなく、感情の揺らぎを表情と仕草で観客が察する。そんなシーンがあります。
とにかく少年2人の演技が素晴らしい。
「あっ、そういうことか」と声に出しそうになったほどです。
ただ、その出来事に対して、私は心の準備ができておらず、皮肉なことに演技が良い分、戸惑いを引きずってエンディングを迎えてしまいました。
決して批判ということではなく、小学生の友情として見ていた私には想像していなかった展開であり、結末も素直に受け取ってしまうとあまりに辛いと思ってしまったのです。
観賞後、安藤サクラさん演じる母親の何気ないと思っていたセリフを思い出し、ハッとしました。
「白線出たら地獄だよ」
私は白線の内側にいて、白線の外側と関わった経験と理解が足らなかったのかもしれません。
映画の良いところは、自分がなかなか体験できないことを、その世界に連れて行ってくれるところだと思っています。
この映画を観たことにより、今の時代に対して理解する心と、その準備は常にしておいたほうがいいと感じました。
観客にも覚悟を求められる、今の時代に合った見応えのある映画でした。
※観賞後、是枝監督のインタビューを読みました。色々な配慮の上、撮影されたことがわかり、また、結末も編集中に二転三転したそうです。もう一度観て見たいなと思いました。
是枝監督インタビュー「彼らから見れば私たちの方が…」※ネタバレあり
怪物は「考察」が好きな方におすすめ!
映画「怪物」は、観客の解釈(考察)が重要になっている印象です。1時間かけて考察してくれているYou Tuberもいるくらいです。確かにーと感心しますし、そこが面白い作品ではあると思います。
考察(深読み)をするのが得意だったり、好きな方にはとても面白い映画なのではないでしょうか?
『#怪物(2023)』
— ろろ (@roro_filmaker) June 12, 2023
妻と観たのだけれど、妻は結構自分とは違う視点を持っており、鑑賞後の「答え合わせ」が面白かった。今作は、「鑑賞後に考察したり、話し合うのが本質的な意味合いを持つ作品」だとおもうし、それが「映画」の根源的な楽しみ方の一つともおもう。色々してやられた。面白かったです。 pic.twitter.com/8LMgJFcN8H
「怪物」観ました。
— 倉月 (@kuratsuki_5) June 12, 2023
大人の知らない2人だけの時間や世界はわずかな救いみたいな表現で…ユートピアでよかった。
もう少しだけ答えの続きを見せて欲しいところでエンドロール。それを考える(考察する)ことが視聴者の役割なのも分かるけど、スピンオフは星川くんverを求む。
映画「怪物」鑑賞。是枝監督のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した作品。真相がわからない色々な出来事を様々な出演者の視点で見せ直し伏線を回収していくタイプの作品。誰の目線・感情にたつかでがらっと見方が変わると思う作品…ラストまで観てもいろんな解釈をもつ深い映画です。#札幌映画鑑賞部 pic.twitter.com/ia486HN25t
— クラッシャー (@GP03C) June 12, 2023
一方で、ピンとこないと感じてしまう人もいるようです。
映画『怪物』この監督と脚本家で予告があれなら、観た後「本当の怪物は一体誰だったんでしょうねえ?」と眉間に皺寄せながら劇場出るだろうと思ったらほんとその通りで、完成度は高いしつまらないわけじゃないけど、意外性はなかった。カンヌでウケそうな意図的なほつれみたいなのはあざとさを感じた。 pic.twitter.com/KOlzWRe9aI
— いいんちょランド (@usukeimada) June 4, 2023
人それぞれの解釈で見方が変わるのも、映画鑑賞の面白いところですよね。
まとめ
カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しただけのことはあり、緻密な構成に、考察する人が続出しています!
ここでの明言は避けますが、これまでも社会問題に切り込んできた是枝監督らしい、今の時代に合ったテーマの映画でした。
何度も観て、自分なりの解釈をしたくなる映画です。
ギリギリぼかしてご紹介しましたが、ピンときてしまった方、すいませんでした!
しかし、わかった上でも色々考察のできる映画ですので、是非、劇場に足を運んでみてください!
- 是枝裕和、坂元裕二、坂本龍一の奇跡のコラボレーション
- 予告と本編はかなり印象が違う
- 怪物とは一体何なのか考察したくなる