この弁護人、超規格外!
映画「毒舌弁護人」は、口の悪さが災いして職を失ってしまった判事が弁護士として巨悪に挑む痛快ストーリーです。
一見するとよくある法廷もの?と王道なストーリーを想像しそうですが、じつはこの映画は香港映画史上No.1の興行収入を記録。
一体何が香港の人々を惹きつけたのでしょうか?
法廷の前では全ての人間が平等なのかーーー。このキャッチフレーズにヒントが隠されているかもしれません。
その辺りを中心に「毒舌弁護人」をご紹介したいと思います。
映画「毒舌弁護人」の基本情報
毒舌弁護人
香港のヒーロー弁護士の活躍を通し、生涯忘れられない至極の感動エンタメ大作が誕生!
2023年の旧正月に合わせて公開された本作は、香港映画史上初の1億香港ドル(約17億円)を突破し、最終的に1.21億香港ドル(約22億円)を記録した。
タイトル / 原題 | 毒舌弁護人 ー正義への戦いー / 毒舌大狀 A Guilty Conscience |
監督 | ジャック・ン |
脚本 | ジャック・ン |
制作 | ビル・コン アイヴィ・ホー |
キャスト | ダヨ・ウォン ツェ・クワンホー ルイーズ・ウォン フィッシュ・リウ マイケル・ウォン ホー・カイワ |
製作国 | 香港 |
製作年 | 2023年 |
公開日 | 日本 2023年10月20日 / 香港 2023年1月21日 |
上映時間 | 133分 |
ジャンル | ドラマ サスペンス コメディ |
毒舌弁護人ラム・リョンソイを演じたダヨ・ウォン。
多彩な俳優であり、監督でもありますが、90年代頭にスタンダップ・コメディアンとして活躍していました。
その後、テレビドラマの他、50作品以上もの映画に出演しています。
主な出演作は、『ぼくたちはここにいる』(1994年)、『香港ラブストーリー 恋のラブ・アタック作戦』(1995年)、『Let’s Sing Along(英題)』(2001年)、2018年の香港内興行成績1位に輝いた『Agent Mr. Chan(英題)』(2018年)、コメディー映画として史上初めて香港内だけで興行成績7000万ドルを突破した『6人の食卓』(2022年)などがあります。
そして本作で香港の興行収入歴代1位を記録。
今や香港においてコメディー・アイコンとも呼ばれているそうです。
あらすじ
五十代の治安判事ラム・リョンソイ(ダヨ・ウォン)。
新しい上司の気分を害したことで、職を失ってしまってしまいます。友人の勧めもあり、ラムは法廷弁護士に転身。
そんなラムがはじめて手掛けた事件は、複雑には見えない児童虐待事件でした。
しかし、事件を甘く見たせいで無実の母親を有罪にしてしまい、ラムは心を入れ替えて真相を究明しようと尽力します。
ところが、事件は予想外の展開を見せ、ラム・リョンソイとパートナーの若い女性法廷弁護士のフォン・カークワンは、大きな権力闘争に巻き込まれていくのでした…。
正義とは何か?毒舌弁護士ラム・リョンソイは、正義が失われた法廷で、真実に迫るべく巨悪に戦いを挑むのでした。
香港歴代興行収入No.1!
2023年の旧正月に合わせて公開された本作は、香港映画史上初の1億香港ドル(約17億円)を突破し、最終的に1.21億香港ドル(約22億円)を記録しました。
これまでの記録を塗り替えた本作ですが、制作陣、キャストは香港を代表する実力派が集結!
主演のダヨ・ウォンを筆頭に、豪華俳優陣の共演も興収に影響があったのかもしれません。
- ジャック・ン(監督・脚本)— 監督としてデビュー作ながら、香港映画のヒットメーカーであるダンテ・ラム作品の脚本を何作も担当。優れた作品に関わってきました。
- ツェ・クワンホー(カム・ユンサン役)— 1994年に上演された『The Mad Phoenix(英題)』で一躍有名になったのち、同名で映画化され、Golden Horse Awards(金馬奨)で最優秀男優賞を受賞。その後も数々の映画祭で評価されています。
- ルイーズ・ウォン(ツァン・キッイ役)— グッチ、サルヴァトーレ・フェラガモ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、などの国際的なラグジュアリー・ブランドのランウェイに登場するなどモデルとして活躍。映画「アニタ」での演技は各方面で絶賛され、Hong Kong Film Awards(香港電影金像奨)で、最優秀女優賞と最優秀新人賞2部門にノミネートされました。
- フィッシュ・リウ(チュン・ニンワー役)—『アニタ:ディレクターズカット』と、『リンボー』での演技が高く評価され、Hong Kong Film Awards(香港電影金像奨)にて、両作品の演技で最優秀助演女優賞にノミネートされています。
- ホー・カイワ(”御曹司”役)— 一風変わったボーイズ・グループERRORのメンバーとして知られる前は、ディー・ホーとしてエンタメ業界で活躍。笑いのセンスは高く評価され、『アニタ:ディレクターズカット』(2021年)などで重要な役に抜擢されています。
香港市民の香港への愛着
中国本土の映画市場の急成長によって、迷走し続けてきた香港映画界。
私たちが香港を舞台にした映画も、制作国の表記が「中国」の作品が増え、香港映画の衰退が懸念されていました。
しかし、この数年間、大きな変化が起こっているようです。
かつては、香港の年間興行収入ランキングに入っていた作品のほとんどがハリウッド大作映画でしたが、2022年の香港年間興行収入ランキングトップ10には、4本の香港映画が名を連ねました。
実は、このような事態が起こったのは、2022年からではないと言われています。
数年前から、激動の社会変化を経験した香港市民は、中国の強硬な姿勢に反発するかの如く「香港」という町に対する帰属意識が強くなっていると言われています。
その変化の影響からか、今までのような香港アクション映画ではなく、より、庶民の生活を描く作品、ローカル性の高いエンタメ作品、あるいは社会派作品がランクインしているのが近年の特色だと言われています。
その勢いを体現し、香港映画の“新記録”を生み出したのが、ジャック・ン監督作品『毒舌弁護人〜正義への戦い〜』。
一見すると王道の法廷劇ですが、それでも多くの香港市民の心に届いたのは、「巨大な権力」に立ち向かう「小さな力」に共感したからかもしれません。
「毒舌弁護人」レビュー評価
毒舌弁護人というタイトルもあって、主人公が毒を吐きまくって事件をどうにかこうにか解決する単純明快な爆笑コメディーと思い込んで鑑賞を始めました。
確かに主人公の毒舌ぶりは酷く、やる気のなさがいい感じでスタートします。
ところが、弁護士に転身して最初の事件を受け持った辺りから、雰囲気はガラッと変わります。
王道ストーリー
全編にわたって毒を吐きまくると思いきや、主人公も心を入れ替えて真相を求めて尽力する…。
結構骨太な映画でした。
思っていた以上に王道ストーリーで安心感はありますし、法廷での演説もグッとくるものがあります。
ただ、悪くはないし、俳優陣の熱演も良いし、決して退屈するわけでもないのですが、いまいち突き抜ける物が無い…。
このお話で、香港歴代興収No. 1とは何があったのだろうと不思議に思いました。
ちょっと既視感と言いますか、日本の法廷系のサスペンスドラマをいくらか見ていれば予想できてしまう展開。
ちなみに、勝手な予想ですが、そう遠くないうちに日本でリメイクしそうな予感がします。
主人公は、あの人で、バディの女性弁護士はあの人で〜なんて想像しやすい、よく言えば安心して楽しめる作品でした。
中国化への背景を想像すると…。
ただ、やはりなぜそこまでヒットしたのか気になります。ここには、香港特有の現状が影響しているのかもしれません。
先ほど、香港市民の帰属意識について触れましたが、現在の香港において、やはり中国本土の影響はとても強いようです。
1997年の香港返還後、多くの人は、資本主義で自由なイギリスの旧植民地が、共産主義国家・中国の統治下でやっていけるか心配していたといいます。
そこで中国政府は、他の地域では手に入れられない市民的自由を、香港では少なくとも50年間、「一国二制度」の下に保持すると約束。
それでも徐々に中国色は濃くなり、例えば、香港に地域本部を置く国際企業の数は、2018年から2021年にかけて10%近く減少する一方で、中国企業の進出数は28%近く増えています。
香港離れと自国愛を持つ在住者達の共感を得たか
また、ここ数年、多くの市民が香港を離れ、別の国に移住。
かつての転出組は、「政治的な脅威は考えられるが、それほど悪い状況にならない可能性もあると思っていた」そうです。
しかし今は、香港を離れる人たちは、もう二度と戻らないつもりで行動しているそうで、国外から今後の香港を見守る人が増えつつありました。
中国化への抗議行動も押さえつけられ、徐々に香港ならではのアイデンティティーが失われるかもしれないと心配する人たちがいる中、それでも多くの香港市民は香港という街に愛着が深まっていると言われています。
権力を使って正義を捻じ曲げようとした特権階級に対して、真っ向から勝負を挑んだ小さな力を描いた本作。
力で押さえつけようとする権力者に反抗する姿に、多くの香港市民は共感し、感動を覚えたのかもしれません。
さまざまな国、ジャンルの映画が作られていますが、背景を知ることにより、その映画の持つ魅力が大きく変わってくるのだと実感した作品でした。
「毒舌弁護人」配信サイト
毒舌弁護人は2024年7月時点では、ほとんどの配信サイトで取り扱いがありません。
唯一U-NEXTのみ取り扱いがあります。配送レンタルではTSUTAYA DISCASを利用できます。
U-NEXT
取り扱い作品数が業界No. 1のU-NEXT。レンタル作品が多いのでWEB上のレンタルビデオ店をイメージするといいでしょう。
毎月1,200円分のレンタルチケットを手に入れられるので、毎月数本はポイントで閲覧することができます。
「毒舌弁護士」もレンタル可能となっています。
U-NEXT
TSUTAYA DISCAS
月額料金1,026円(税込)〜
無料期間最大30日
郵送でDVDやCDを受け取ることができ、返却もポストに戻すだけ。充実の作品ラインアップと手軽なシステムが、多忙な日常に彩りを添えます。定額リストで好きな作品も登録可能。
ツタヤディスカスはDVDやBlu-rayを自宅配送してくれるサービス。返却はポストでいいのがメリット。
ツタヤディスカスは全国のDVD在庫から作品を探すことができるので、大昔の作品からマイナージャンルまで取り扱っているのがポイント。
観たい作品が必ず見つかります。「毒舌弁護士」もレンタル可能です。
DVDなどは通販サイトでも通常販売されています。
毒舌弁護人は骨太ストーリー
一見、毒舌吐きまくりのコメディかと思いきや、権力に立ち向かう骨太なストーリーだった「毒舌弁護人ー正義への戦いー」。
中国と香港との関係を描いた作品ではありませんが、おそらく多くの香港人が権力者を中国になぞらえて鑑賞したものと思われます。
法廷では全ての人は平等でなくてはなりません。
力を持つものに対する反抗心。
香港歴代1位となった理由を想像しながら見ると、非常にカタルシスを感じる作品でした。