クリント・イーストウッドがメガホンを取り、世界中で感動を呼び起こした映画「ミリオンダラー・ベイビー」。
アカデミー賞では主要4部門を制覇し話題となりました。
ただ一方で、この映画に対する拒否反応も続出。
アメリカンドリームを表現したはずの本作は、なぜ賛否を巻き起こしたのか。
生きることとは何かを観客に痛烈に問いかけてくる映画「ミリオンダラー・ベイビー」を、ボクシングファンの視点を交えてご紹介します。
ミリオンダラーベイビー概要
タイトル / 原題 | ミリオンダラー・ベイビー / Million Dollar Baby |
監督 | クリント・イーストウッド |
脚本 | ポール・ハギス |
原案 | F・X・トゥール 「テン・カウント」 |
音楽 | クリント・イーストウッド |
キャスト | クリント・イーストウッド ヒラリー・スワンク モーガンフリーマン |
製作国 | アメリカ |
製作年 | 2004年 |
公開日 | 日本 2005年5月28日 / アメリカ 2004年12月15日 |
上映時間 | 133分 |
ジャンル | ドラマ PG-12指定 |
ポール・ハギスが売り込み用脚本を書き、それを売り込むのに4年を要した本作。
映画は撮影されるまでに何年も開発地獄に陥ったそうです。
イーストウッドが俳優と監督として契約するに至ってもなお、本プロジェクトはいくつかのスタジオに断られてしまいます。イーストウッドの長年の本拠地であるワーナー・ブラザーズでさえも、3,000万ドルの予算には同意しません。
イーストウッドは、レイクショア・エンターテイメントのトム・ローゼンバーグに、予算の半分を出し(海外配給も担当)、残りをワーナー・ブラザーズが負担するように説得し、なんとか制作に漕ぎ着けました。
受賞歴
- 第77回アカデミー賞 作品賞/監督賞/主演女優賞/助演男優賞
- 第62回ゴールデン・グローブ賞 監督賞/女優賞(ドラマ部門)
- 第10回放送批評家協会賞 主演女優賞
紆余曲折を経て制作に漕ぎ着けた本作ですが、公開後は瞬く間にヒット。
賛否両論ある内容ですが、評論家の受けは良く、数々の映画祭で受賞、またはノミネートされました。
第77回アカデミー賞においては、マーティン・スコセッシ監督の『アビエイター』との「巨匠対決」を制し作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞の主要4部門を独占。話題となりました。
あらすじ
小さなボクシングジムを経営するフランキー。
優秀な指導者ですが、ボクサーの安全を守ろうとするあまり、タイトル獲得の機会を逃したと感じる教え子たちは皆離れていってしまっていました。
そんなフランキーのもとを、マギーという女性が入門したいと訪れます。
断り続けていたフランキーでしたが、ジムで働くスクラップの助言でマギーを受け入れることにしました。
マギーは来る日も来る日も練習に明け暮れます。
その努力が実を結び、ボクサーとしての才能を発揮。
フランキーとのコンビで連戦連勝を飾ります。
そして、ついに100万ドルの賞金がかかったタイトル戦の権利を手に入れますが、ここから二人の運命の歯車が狂い始めるのでした…。
イーストウッドの衰えない情熱
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作品 | 公開 |
---|---|
許されざる者 | 1992年 |
マディソン郡の橋 | 1995年 |
ミスティック・リバー | 2003年 |
ミリオンダラー・ベイビー | 2004年 |
硫黄島からの手紙 | 2006年 |
グラン・トリノ | 2008年 |
アメリカン・スナイパー | 2014年 |
ハドソン川の奇跡 | 2016年 |
監督を務めたクリント・イーストウッドは、「許されざる者」(1992年)と「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)で2度のアカデミー賞監督賞を受賞。
その他にも、「マディソン郡の橋」や「ミスティック・リバー」、「硫黄島からの手紙」、「グラン・トリノ」など、傑作を世に送り出しています。
年齢が80代になっても「アメリカン・スナイパー」、「ハドソン川の奇跡」など、力作を生み出してきました。
「荒野の用心棒」(1964年)や「ダーティハリー」シリーズ(1971年〜)で俳優として大スターになった後、監督でもここまでの大成功を収めたのは、他に類をみないケース。
さらに2024年5月で94歳になったクリント・イーストウッドは新作を完成させたことが伝えられています。
2021年に公開された監督作「クライ・マッチョ」には、自らも出演。
その後、『Juror No.2(陪審員2番)』という新作に取りかかり、すでに撮影や編集を終え、公開を待つばかりの状態だそうです。
この作品で、イーストウッドは監督業を引退すると言われていますが、自らの主演作「ガントレット」(1977年)のリメイク(トム・クルーズ主演)の制作に名を連ねているそうで、まだまだ情熱は衰えなさそうです。
ミリオンダラー・ベイビーにまつわる紛争や実話
賛否両論
映画自体はヒットを記録し、高評価を得ていますが、一方で表現内容に異論を唱える団体なども存在しています。
劇中、尊厳死や安楽死に関する表現がありますが、この問題はキリスト教右派が無視できない勢力を持つアメリカでは極めてデリケートな問題であり、保守派コメンテーター、障害者団体、キリスト教団体によるこの映画のボイコット運動などが起こり話題になりました。
また、障害者権利活動家などが映画後半の、マギーとフランキーの関係、行動について「生きることを軽視」しているなどと論争を起こしています。
一方で本作は、あくまでアメリカンドリームを表現したものであり、自身の思想などを反映したものではないとイーストウッドは語っています。
実話を元にした作品
発売 | 2000年 |
タイトル | Rope Burns:Stories From the Corner |
著者 | F.X・トゥール(ジェリー・ボイド) |
脚本 | ポール・ハギス |
ミリオンダラー・ベイビーは、2000年に発表されたF.X・トゥール(本名:ジェリー・ボイド)の実話が元になっています。
1930年カリフォルニア生まれのジェリー・ボイド。
海軍除隊後メキシコに渡り闘牛士を目指したり、バーで働いたりと様々な事をするも長く続かず、私生活はで3度の結婚と離婚を繰り返しました。
ジェリーの人生は挫折の繰り返しでしたが、「ノックアウトされても何度も立ち上がるボクサー」から人生を学ぶ事を決断。
49歳という年齢でボクシングジムに入門しました。その道はとても険しく試合に出る事さえ厳しいものでした。それでも毎日必死にトレーニングを続けます。
ジェリーの姿を見ていたトレーナーのダブ・ハントリーは彼のトレーナーとしてサポート。
何年もの月日をかけて深い絆で結ばれたジェリーとダブは、「ボクサー」としての夢から「トレーナーとして世界一を目指す」というものに変化していきます。
左目の視力を失ったダブをジェリーはサポート。
2人で1人の最強トレーナーが誕生し、後に世界タイトルに輝く選手を育て上げるまでに至ったのです。
このような出来事がきっかけでジェリー・ボイドは映画の原作となった短編集を執筆したのでした。
ミリオンダラーベイビーの感想レビュー
畑山隆則、坂本博之、セレス小林、亀田興毅、内藤大助、西岡利晃、長谷川穂積、山中慎介、井上尚弥…。
個人的にボクシングが好きでよく会場に足を運び、東洋太平洋や世界チャンピオンになった男たちの戦いを観てきました。
武道館やさいたまスーパーアリーナなど、大きな会場の盛り上がりや華やかなリング上で戦う姿には熱く沸るものがあります。
ただ一方で、後楽園ホールでの観客が疎なデビュー戦や4回戦の試合を見るのも好きでした。
素人目にも技術的にタイトルマッチを戦うボクサーには程遠いですが、それでも己の拳を信じてリングに立ち続けようとするボクサーの姿には毎回感動します。
自分の価値
本作の主人公のマギーは、アメリカ中西部でトレーラーハウスに住むほど貧しい上に、家族が崩壊状態。
死んだ父親以外から優しい扱いを受けてきませんでした。
そのため、自分の価値を証明するためにボクシングに挑戦。
なんとか自分の存在意義を見出そうとする姿をヒラリー・スワンクが熱演していますが、その姿は後楽園ホールの4回戦ボーイの試合と重なり、胸が熱くなりました。
苦しみの先に
私がボクシングを好きな一番の理由は、どんなに悪そうな奴でも実は練習をちゃんとしているところ。
いわゆる練習は嘘をつかないというものです。
試合までに苦しい練習と減量に耐えなくては(基本的には)リングに立つことは許されません。
マギーがボクシングのために生活をしているように、多くのボクサーたちが情熱を持ち、自分の拳で成り上がろうと日々の生活を送っています。
この苦しさを乗り越えた先のマギーの戦いぶりはスカッとするものがあり、映画「ロッキー」もそうですが、観客は苦しみを乗り越えているのを知っているからこそ応援するのです。
胸の熱くなる展開
同じく色々抱えているフランキー(クリント・イーストウッド)の不器用さも、胸を熱くする要素の一つ。
カットマン(ボクシングで出血をラウンドの合間に止める人・セコンド)としての矜持を垣間見ることができてかっこいいです。
それらの要素が絡み合い、ボクシングを通してのアメリカンドリームを熱くなりながら楽しむことができました、上映の3分の2くらいまでは。
その後、予想しなかった展開が待ち受けているとは思いもよりませんでした…。
決断(ネタバレあり)
タイトルマッチでの相手の反則行為により全身不随になってしまったマギー。
本当のボクシングであれば、相手の愚行の前にレフェリーが試合を止めるかもしれません。
映画的演出と受け取りますが、輝いていた人が暗闇に落ちる姿を見るのは耐え難いものがあります。好事魔多しとはよく言ったもので、それを描いたということでしょうか。
前半とのギャップに感情は激しく揺さぶられ、マギーの願いとフランキーの決断には賛否あることは理解しつつも、やはり同情をしてしまいます。
再びリングに上がれない苦しみから逃れるために死を選ぶ。
尊厳死や安楽死を認めるか議論になっていますが、マギーに「モ・クシュラ」(お前は私の血)と囁くフランキーの優しくも苦渋に満ちた表情に、私は正解を見出すことは出来ませんでした。
しかし一方で、「モ・クシュラ」の意味を知ったマギーの表情に救われる思いがしたのも事実です。
引退できる幸せ
余談ではありますが、ボクシングは後遺症に悩まされるだけでなく、命の危険すらあるスポーツです。
ある選手の引退試合を観て感じたのが、引退のセレモニーである10カウントゴングを聴けるのは幸せなこと。
この映画を観て改めて思いました。
自分が納得いく終わり方ができるかどうかはそれぞれですが、それでも引退は急な終わり方ではありません。
多くの選手がボクサー人生を全うできるよう祈るばかりです。
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まとめ
痛快なアメリカンドリームと、死と向き合うことを問われるという両極端なストーリーが混在した映画「ミリオンダラー・ベイビー」。
思いやる心があるからこその決断は、自分だったらどうするかと観客に問いかけてきます。
自分にとっての「モ・クシュラ」に果たして同じことができるのか。
とにかく感情の振り幅が大きい映画ですが、何かを観客の心に残す名作になっています。