難解映画として有名なレオナルドディカプリオ主演のインセプション。渡辺謙が出演し、ノーラン監督やディカプリオが来日するなどして公開当初は話題となりました。
当時から難解映画とされ、ラストシーンいついてはいまだに明確となっておらず、「現実世界に戻ったのか?」「夢の中のままなのか?」議論されており、解釈の難しいシーンがいくつかあります。
この記事では映画初見の人が難しく感じるポイントやラストシーンについてもお話ししていきます。本当の意味は映画製作者しかわからないため、あくまでも考え方の1つとして参考にしていただければと思います。
映画を視聴済み向けの記事となりますので、まずは映画を見てから解説を参考にしましょう。
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難解映画「インセプション」の作品概要
公開日 | 2010年7月23日 |
上映時間 | 148分 |
監督 | クリストファー・ノーラン |
ジャンル | SF、アクション、サスペンス |
キャスト | レオナルド・ディカプリオ(ドム・コブ役) ジョセフ・ゴードン=レヴィット(アーサー役) エリオット・ペイジ(アリアドネ役) トム・ハーディ(イームス役) 渡辺謙(サイトー役) キリアン・マーフィ(ロバート・フィッシャー役) マロン・コティヤール(マル・コブ役) マイケル・ケイン(マイルス教授役) |
夢の中に潜入し、人の潜在意識にアイデアを植え付けることができる「インセプション」という手法を扱ったSFアクション映画。
2010年に公開されていますが、クリストファーノーランの名作映画として今でもファンが多い作品です。
あらすじ
主人公のレオナルド・ディカプリオが演じるドム・コブは、妻(マル・コブ)の殺害容疑がかけられており、逃走中の身のため自国に帰れない状況。富豪の実業家であるサイトーの仕事を受ければ、「権力で自国に帰れるようにはからう」と提案される。
コブは、サイトーのライバル会社であるフィッシャー社の会長の息子(ロバート・フィッシャー)の意識に入り込み、「帝国を潰すための考えを植え付ける(インセプション)」という困難なミッションに挑戦する。
インセプション(潜在意識への植え付け)は、現実世界でも違和感なく残るため、ミッションが成功すれば帝国を潰すことができるが、夢の中ではトラブルが発生することで思わぬ展開を迎えます。
インセプションが難しいと言われる理由
難解映画と言われる理由がいくつかあります。
映画はコブがサイトーにエクストラクション(情報の抜き取り)するシーンから始まり、最初から夢が階層化されています。中盤アリアドネが出てくるまで何の説明もないままストーリーが進むため、視聴者が混乱するような作りとなっています。
ストーリー後半になると夢が階層化されて展開も早くなるため、映画初見の人や、ミステリー映画に慣れていない人は頭が混乱します。”あえて混乱させるような作りになっている” と言っていいでしょう。
映画のラストは虚無やサイトーの出現により、冒頭と最後を繋ぐようなシーンで終わります。そのため、「そもそも現実世界も夢の中だったのか?」と考えさせられます。
夢か現実かの解釈によって、冒頭からの演出も捉え方が変わってくるため、どんどんドツボにハマっていく作品。ラストシーンのトーテムの解釈も視聴者に委ねられる形となっています。
公開時のノーラン監督の発言では、「とにかくリラックスして。何か乗り物に乗った気分で見ていけば、理解できると思うから」と語っており、深く考えずにただ楽しんでもらいたいという言葉を残しています。
ラストシーンも含めて、わかりにくいシーンを順番に見ていきます。最初はストーリーがわからない人のために映画の設定部分から解説していきます。
【初心者向け】インセプションが難解とされる設定
そもそも映画のストーリーが途中からわからなくなってしまった人向けに、設定を紹介していきます。
頭に入れてから、2回目を見ることで理解が深まり演出の解釈も異なるでしょう。
使われる専門用語
用語 | 意味 | シーンの例 |
---|---|---|
エクスト ラクション | 夢の中での情報の “抜き取り” | 冒頭のサイトーから |
インセプション | 夢の中での情報の “植え付け” | ロバートに会社を潰すよう仕向ける情報の植え付け |
キック | 夢から現実へと帰ってくる、目覚めさせる行為 | コブをバスタブへ落とす、アーサーが打たれて死ぬ |
トーテム | 夢と現実を区別するアイテム 本人にしか効力無し | コブ:コマ サイトー:じゅうたんの触り心地 アリアドネ:重心のズレたチェスのコマ イームス:同じ目が出るサイコロ |
ドリーマー | 夢の主 | アリアドネの夢設計練習のシーン(ローマ) |
強力鎮静剤 | 簡単に夢から目覚めさせない薬 | ローバートとのフライト中 |
この中でも「通常の状態」と「強力鎮静剤中」のキックは混同しがちです。
通常であれば夢の中で死んでしまうと現実世界に戻ってくることができますが、強力鎮静剤を使用した後は簡単には目覚めないため、死んでしまった場合は虚無に落ちます。
ロバートにインセプションを仕掛ける時は強力鎮静剤の状態となるため、後半ではサイトーとロバートが虚無に落ちてしまうシーンが描かれていました。
また、虚無から抜け出す唯一の方法は「死」なので、ラストの虚無ではロバートとアリアドネがビルから落下しています。
インセプションは金庫がカギ
インセプションの方法は夢の中の金庫を探し出し、情報を植え付けること。
モルへのインセプションは、金庫に入っていた彼女のトーテムのコマを回すことで、「金庫内で回り続けるコマ=ここは現実ではない」と潜在的にわからせることが目的でした。
ですが、現実世界に戻ってもモルの潜在意識のコマが回り続けてしまったため、自殺に至った経緯があり、コブのトラウマとなっています。
ロバートの場合は、金庫部屋で会長から「自立を促す言葉=今の会社ではなく、新規事業の立ち上げ」を刷り込むことがインセプションとなっています。
ロバートは金庫の前でモルに撃たれるシーンがありますが、インセプション前の段階だったため助ける必要があったのです。
この頃になると展開が早すぎて、そもそもの目的である「サイトーのライバル会社を潰すため」ということを忘れがちになるので、覚えておきましょう。
夢の階層構造
夢には階層があり、”夢の中でドリームシェアリングを使うと1階層下がる” といった構造になります。
階層 | シーン | キック | 夢の主 |
---|---|---|---|
現実世界 | 京都へ向かう新幹線 | ー | ー |
1階層 | サイトーの隠れ家 | タイマー | ナッシュの夢 |
2階層 | サイトーの城 | コブはバスタブへ アーサーは撃たれる | アーサーの夢 |
映画が始まると最初から2階層の構造となっているため、頭が混乱する人もいるかもしれません。
序盤はサイトーがコブを試すシーンとなり、アーサー死亡により城が崩壊していきます。コブはバスタブへ落ちたことで城には大量の水が流れ込むのが印象的です。
ちなみに、最初にコブが海に打ち上げられ、おじいちゃんのサイトーと会っている虚無のシーンが繋がって見えますが、これは後半に繋がる回想シーンとなるため、別物となります。
階層 | シーン | キック | 夢の主 |
---|---|---|---|
現実世界 | フライト | ー | ー |
1階層 | ロサンゼルスでカーチェイス | 着水の衝撃 | ユスフの夢 |
2階層 | ホテル | エレベーターの爆発 | アーサーの夢 |
3階層 | 雪山 | 建物の爆発 | イームスの夢 |
4階層(虚無) | 廃墟の高層ビル群 | ビルから落ちる | ロバートの虚無 |
本来のキックの仕様(夢から現実世界(上の階層)へ戻す役割)であれば、椅子を揺らしただけで目覚めますので、買収されていたCAが装置を外して起こした可能性もあります。目覚めた時に装置がなく、外れていたのはそのためでしょう。
ですが、ここでは明確な設定が映されていないため、自身を上の階層へ戻すために衝撃を与えているように感じます。この方が、最後の同時キックにも納得できるでしょう。
1階層目:酒を飲みすぎたせいでトイレに行きたくなってしまったため、雨の設定となっています。車を橋から落とし、着水の衝撃で現実の飛行機内に戻ります。
2階層目:バーカウンターでロバートに味方だと信じさせるシーン。ホテル内のエレベーターを落とすことで戻ります。
3階層目:雪山でロバートがモルに撃たれるシーン。建物の爆破で上の階層へ戻ります。
虚無:コブとモルが作った廃ビルがあり、共通の場所として描かれています。
強力鎮静剤が効いた状態でロバートがモルに打たれて死の淵を彷徨い虚無へ堕ちます。虚無からの脱出は死ぬことでしか戻ることができないので、ビルから落下し、死亡することで戻ってきます。老人サイトーが銃に手を伸ばしたのもそのためです。
虚無以外の階層では三半規管を刺激して起きることとなります。
虚無(原語:limbo)とは、イエス・キリスト伝中の説話で「地獄と天国との中間にある霊魂の住む場所」として扱われています。
無意識の状態で虚無に落ちると、そこが夢なのか現実なのかわからずに歳を重ねていきます。サイトーが老人になっていたのもそのため。
ロバートとアリアドネは虚無と分かっている状態で落ちたため、歳を取らずに帰ることができています。
下層に行くと増える時間設定
ロバートへのインセプションでは最終的に4階層の構造となっていましたが、1階層下がるごとに時間が20倍となります。
- 現実から1階層(フライトからLA)
10時間→200時間(20倍・1週間) - 1階層から2階層(LAからホテル)
200時間→4,000時間(20倍・半年) - 2階層から3階層(ホテルから雪山)
4,000時間→80,000時間(20倍・10年) - 3階層から虚無(雪山から廃ビル群)
80,000時間→1,600,000時間(20倍?・182年)
1階層では車が橋から川へ落ちるだけの数秒の間に、ホテルではエレベーターに全員を移動したり、雪山では建物に爆弾を設置したりと多くの時間が流れています。
各階層のキックシーンを同時に繰り返し移すことによって、最後は一気に現実に戻ることを意識して作られています。
虚無は4階層としていますが、強力鎮静剤の状態ならどの階層で死亡しても落ちてしまうため、単純に20倍というわけではありません。
インセプションのラストシーン解釈
ラストシーンはトーテムが倒れるかどうかの所でカメラアングルが変わります。
「現実に戻った」「夢オチ」のどちらかで解釈するのかによって、映画の前半部分の捉え方が変わります。
最初からすでに夢の中説=トーテムが倒れない
トーテムが倒れずに終わる場合は、現実世界=第一階層ということになります。
インセプションには辻褄が合わないシーンがいくつかあり、夢オチとなれば全てがコブの夢による想像として解決できます。
- 京都のシーン:京都で降りたはずが東京タワー
- モルのトーテム:持ち主にしか効力がないモルのコマをコブが使用している
- モルの自殺:部屋は荒らされているのに、飛び降りは何故か向かいのホテルから
- 子供の成長:回想シーンとラストシーンの子供の成長の違い
現実世界までもが夢の第一階層だと考えると、全てのことがコブの中での潜在意識、トラウマが反映された形となるため、説明のつかない違和感も腑に落ちます。
トーテムは自分にしかわからない仕掛けを施したものを持つ必要があります。コブがトーテムとして使っている駒は、元々モルがトーテムとして使用していたもの。
他人のトーテムを使う場合、他人の夢の中でトーテムの動きを再現されてしまう可能性があるため、効力があるのか謎な部分があります。
そうなると、コブがコマで夢か現実か判断できていない可能性が出てきます。
コブは最後にトーテムを見ることをやめ、子供に寄り添います。
「夢や現実」「トーテム」に囚われず、たとえ夢だったとしても、家族がいる世界で生きることを選んだという形となります。
ちなみにエンドロールの最後では目覚めさせるための “あの音楽” が流れてきます…もしかしたらコブを目覚めさせるための合図なのかもしれません。
現実に戻ってきた説=トーテムが倒れる
ネットやSNSを見ていると、ラストシーンは「ハッピーエンドじゃないと悲しすぎる」といった声も多く、現実派の方が多い印象を受けます。
ラストシーンを現実だとすると以下のシーンが合致します。
- コブの結婚指輪:コブは夢の中でだけ結婚指輪をしており、ラストシーンは指輪無し
- 子供の違い:「夢の中でコブが作り上げた子供」と「現実の子供」はキャストも違い、服装も違うため、夢と現実を切り分けている
- マイルズ教授:最後はコブの義父であるマイルズ教授と共に子供と出会うシーン。ノーランが2018年にマイケル・ケイン(マイルズ教授)に放った「あなたがいる世界は現実」の発言と一致
子供は日々成長し、服装が毎日同じわけがないため、「回想シーン」と「現実のシーン」で分けるために子役が4人使われています。
コブのトーテムはモルの物のため信用性に欠けており、結婚指輪こそが夢と現実を切り分ける “視聴者のトーテム” と言っても過言ではありません。
以下ではマイケルケインが実際に語ったインセプションのエンディングについての情報です。
ノーランが放った結末は『現実』
2018年8月10日にロンドンで行われたFilm 4 Summer Screenではインセプションが上映され、コブの義父であるマイルズ教授役を演じたマイケルケインが登壇。
クリストファー・ノーランがケインに教えた“夢と現実の区別の仕方”について語っています。
『インセプション』の脚本を受け取ったときに少し混乱してしまってね。監督に“どれが夢でどれが現実なんだ?”と聞いたら、“君が登場しているシーンは現実だ”と言われた。だから、”私が出演しているシーンは現実で、そうじゃないシーンは夢”だということだ
この言葉通りなら、ラストシーンはマイルズ教授が登場するため現実シーンだったということになります。
この発言の当時でさえ、インプション公開から8年の時が経っていますが、ノーラン監督は結末については、断固として語ることはありませんでした。
エンディングについての論争は、マイケルケインの発言によって、ようやく終止符を打つ形となります。
どちらにせよ結末はハッピーエンドか
クリストファーノーラン自身は結末について直接語ることはなく、エンディングを曖昧なままにして視聴者の主観に任せています。
現実世界に戻ったのならば、インセプションのミッションが完了して妻の殺害容疑も晴れている状態なので、気兼ねなく子供と過ごしているでしょう。
夢の世界で終わっていたとしても、コブはトーテムに囚われることなく子供のいる世界で生きていくことを決めています。
ラストシーンの解釈は視聴者によって変わってきますが、どちらにせよハッピーエンドで締めくくっているため、ノーラン監督が言うように「リラックスした状態で、その時の感覚に身を任せて視聴する」のがインセプションの見方なのかもしれません。
アナグラム
インセプションでは登場人物がアナグラムとなっていました。登場人物の頭文字を合わせるとDREAMSとなります。
D:Dom Cobb
R:Robert Fischer
E:Eames
A:Ariadne
M:Mal
S:Saito
夢の迷宮を設計する役割するアリアドネはギリシャ神話のアリアドネに由来しています。
アリアドネはテセウスに「迷宮からの脱出」を助けるための「糸(アリアドネの糸)」を渡します。迷宮の中で道に迷わず戻れるための道具として「糸」が象徴的な道具として描かれています。
映画「インセプション」では、アリアドネが夢の「迷宮」を設計し、インセプションの任務よりも「コブの心の問題を取り除く」ことが優先されています。
コブを全面的にサポートする役割として設定されているため、ギリシャのアリアドネが持つ「糸」と映画内の 「ガイド」的な役割が重ねられています。
インセプションは伏線と演出が難解すぎる
インセプションは、映画作品に収まる内容ではありません。
短い時間で内容が凝縮されているため、演出も大雑把なところが多く、加えてラストシーンを曖昧にしたことで更に深読みできる作品に仕上がっています。
2度、3度楽しめる作品なので、記事内の解釈も参考にしながら再度楽しんでみてはいかがでしょうか。
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