一度入ると抜け出せない、絶え間なく続く苦しみ ー 無間地獄。
香港ノワールの大傑作、映画「インファナル・アフェア」。
日本での公開から20年以上経ちましたが、2023年には4Kリマスター版が劇場公開されるなど、根強い人気を誇っています。
哀愁漂う男たちの葛藤。
香港版ゴッドファーザーの、悲しくも壮絶な対決には涙なくしては観られません!
インファナル・アフェア3部作の基本情報
作品 | 公開日 | 評価 |
---|---|---|
インファナル・アフェア | 2003年10月11日 | |
インファナル・アフェア Ⅱ 無間序曲 | 2004年9月18日 | |
インファナル・アフェア Ⅲ 終極無間 | 2005年4月16日 |
無駄のないストーリーで絶賛された映画「インファナル・アフェア」。しかし、この物語は単に警察とマフィアの抗争を描いたのではありません。
監督を務めたアンドリュー・ラウはこのように語っています。
一般的に、映画業界ではまず第1作目の興行成績を慎重に分析したのち、2作目の製作にゴーサインを出します。
続く3作目も然りです。しかし、われわれは『インファナル・アフェア』3部作をこのようには扱いませんでした。
当初からIIとIIIのプロットが立ち上がっており、IIでは過去に遡ろうと決めていました。作品に大きな自信があったのです。
アンドリュー・ラウが目指したのは香港版ゴッドファーザー
香港返還という激動の時代を背景に、運命に翻弄された二人の男の人生を描きました。
類いまれなオリジナル脚本の素晴らしさから日米でリメイクが製作されるなど、世界に影響を与えたフィルム・ノワールの傑作です。
フィルム・ノワールとは
元々はフィルム・ノワール(仏: Film Noir)とは、一般に1940年代から1950年代後半にハリウッドでさかんに作られた犯罪映画のジャンルを指します。
アメリカ社会の殺伐とした都市風景やシニカルな男性の主人公、その周囲に現れる謎めいた女性の登場人物(ファム・ファタール)などを主な物語上の特徴としており、第二次大戦前後のアメリカ映画を分析したフランスの批評家によって命名されました。
映像面では照明のコントラストを強くしたシャープなモノクロ画面や、スタイリッシュな構図が作品の緊張感を強調するために多用されることが特徴です。
ただし何を「フィルム・ノワール」とするかは論者によって幅が大きく、明確な定義は定まっていません。
しかしこうした物語・映像表現上の特徴を受けついでヨーロッパや香港など、世界各地で制作された映画を指して「ネオ・ノワール」、「香港ノワール」と呼ばれるなど、批評用語としては広く定着した表現といえます。
インファナル・アフェア
インファナルアフェア
2023年、第48回トロント国際映画祭にて特別貢献賞を受賞した“アンディ・ラウ”と、同年ヴェネツィア映画祭で生涯功労金獅子賞を受賞した“トニー・レオン”。
今もアジアのトップスターとしてその第一線を走り続ける二人が<警察に潜入したマフィア>と<マフィアに潜入した警察官>を演じ、その生き様と究極の対決が世界に鮮烈な印象を残した。
タイトル / 原題 | インファナル・アフェア / 無間道 |
監督 | アンドリュー・ラウ アラン・マック |
プロデューサー | アンドリュー・ラウ |
脚本 | アラン・マック フェリックス・チョン |
キャスト | トニー・レオン アンディ・ラウ アンソニー・ウォン エリック・ツァン ケリー・チャン サミー・チェン ショーン・ユー エディソン・チャン |
製作国 | 香港 |
製作年 | 2002年 |
公開日 | 日本 2003年10月11日 / 香港 2002年12月12日 |
上映時間 | 101分 |
ジャンル | ドラマ / サスペンス |
あらすじ
1991年、ストリート育ちの青年ラウは香港マフィアに入ってすぐ、その優秀さに目を付けたボスによって警察学校に送り込まれます。
一方、警察学校で優秀な成績を収めていた青年ヤンは突然退学。彼は、警視に能力を見込まれマフィアへの潜入を命じられたのでした。
やがて2人の青年は、それぞれの組織で台頭していきます。
そして10年後、警察はヤンから大きな麻薬取引の情報を入手。しかし警察の包囲網はラウによってマフィア側に筒抜けとなっていたのです。
検挙も取引も失敗に終わったことで、警察、マフィア双方がスパイの存在に気づいたのでした…。
見どころ
グイグイと引き込まれるスピーディな展開ですが、それは決して駆け足ということではありません。
きちんと人物描写をしながら伏線回収も抜かりなく、とにかく秀逸なストーリーが本作の最大の魅力と言えます。
また、中盤でのヤンとウォン警視の密会から続く展開は、緊張感と絶望感が相まって、本作は傑作に違いないと感じた瞬間でもありました。
リメイク作品:ディパーテッド
ディパーテッド
ギャング映画の巨匠マーティン・スコセッシ監督が手がけるリメイク作品。サスペンス、アクション映画に出演することが多いレオナルド・ディカプリオ、マット・デイモンが出演
タイトル | ディパーテッド |
監督 | マーティン・スコセッシ |
キャスト | レオナルド・ディカプリオ マット・デイモン ジャック・ニコルソン マーク・ウォールバーグ |
制作年・制作国 | 2006年 アメリカ |
インファナル・アフェアの脚本は高く評価され、リメイクをされています。
マーティン・スコセッシ監督の映画「ディパーテッド」は第76回アカデミー賞にて作品賞(外国映画のリメイク作品としては史上初)、監督賞、脚色賞、編集賞を受賞するなど高い評価を得ました。
リメイク作品:ダブルフェイス
ダブルフェイス
リメイクに成功したと人気のや称賛の声が大きい作品。西島秀俊ファンからの評価も高い。
タイトル | ドラマ「ダブルフェイス 潜入捜査編」 ドラマ「ダブルフェイス 偽装警察編」 |
制作 | TBS・WOWOW共同 制作 |
キャスト | 西島秀俊 香川照之 小日向文世 伊藤かずえ 角野卓造 |
制作年・制作国 | 2012年 日本 |
日本でもTBSとWOWOWが共同でドラマを制作。香港マフィアを日本のヤクザに置き換えています。
『偽装警察編』は、2013年 日本民間放送連盟賞 番組部門 テレビドラマ番組優秀賞を受賞。
『潜入捜査編』『偽装警察編』共に東京ドラマアウォード2013 単発ドラマ部門でグランプリを獲得しています。
別エンディング(ネタバレ注意!!)
中国の猥褻、ギャンブル、暴力を広めたり、犯罪を犯したりすることはできないという中国映画行政規則の第25条に準拠するために、別エンディングが撮影されています。
以下、従来のエンディングに関連するネタバレ含みます
ヤンが射殺されるまでの展開は同じですが、チャンがラウの潜入の証拠を見つけ出し、ラウはチャンに警官バッジを返却してそのまま逮捕される、というエンディングに変更されています。
そのため、インファナル・アフェアIII 終極無間には続かない展開となっています。
また、このエンディングはマレーシア上映でも使用されました。
インファナル・アフェアⅡ 無間序曲
インファナルアフェアⅡ
警察とマフィアにそれぞれ潜入した2人の男の生きざまを描く香港ノワールの金字塔「インファナル・アフェア」3部作の第2作。前作の主人公である潜入捜査官ヤンとマフィア内通者ラウの秘められた過去と、彼らを取り巻く複雑な人間模様を描く。
タイトル / 原題 | インファナル・アフェア Ⅱ 無間序曲 / 無間道Ⅱ |
監督 | アンドリュー・ラウ アラン・マック |
プロデューサー | アンドリュー・ラウ |
脚本 | アラン・マック フェリックス・チョン |
キャスト | アンソニー・ウォン エリック・ツァン ショーン・ユー エディソン・チャン カリーナ・ラウ フランシス・ン フー・ジュン チャップマン・トウ |
製作国 | 香港 |
製作年 | 2003年 |
公開日 | 日本 2004年9月18日 / 香港 2003年10月1日 |
上映時間 | 119分 |
ジャンル | ドラマ / サスペンス |
あらすじ
90年代、中国返還を前に揺れる香港。
警察学校へ送り込まれた、マフィアの子分・ラウと、マフィアの血筋が発覚し、警察学校を退学処分となったヤン。
同じ時、同じ場所ですれ違う二人。
それは終極へと向かう、波乱の人生のほんの始まりに過ぎませんでした。
激動の新時代を生きるため、もがきさまよう若き二人の主人公の秘められた過去と、彼らを取り巻く人々の語り尽くせなかった新事実が、今次々と明かされます。
見どころ
ヤンとラウ、そして2人を取り巻く人々の運命が交差する様を丁寧に描いています。
3部作の中で最も重厚なストーリーになっていますが、こちらも2時間程度でうまくまとめられています。
2→1→3という流れはゴッドファーザーそのもの。
ちなみに一族揃っての写真撮影など、ゴッドファーザーのオマージュも散りばめられています。
俳優陣の熱のこもった演技は素晴らしく、本家に引けを取らない重厚なストーリー。
2作目ですが決して単なる橋渡しの物語ではなく、男たちの運命に胸が締め付けられます。
インファナルアフェアⅢ 終極無間
インファナルアフェアⅢ
大ヒットした香港映画の3部作がついに完結する。
一作目の10か月後から始まる本作は、アンディ・ラウを中心に、謎の人物として登場するレオン・ライとの演技合戦を繰り広げる。トニー・レオンはもちろん1部と2部の出演者総出演で、最終章にふさわしい豪華さ。
タイトル / 原題 | インファナル・アフェア Ⅲ 終極無間 / 無間道Ⅲ |
監督 | アンドリュー・ラウ アラン・マック |
プロデューサー | アンドリュー・ラウ |
脚本 | アラン・マック フェリックス・チョン |
キャスト | アンディ・ラウ トニー・レオン レオン・ライ ケリー・チャン アンソニー・ウォン エリック・ツァン チェン・ダミオン チャップマン・トウ サミー・チェン |
製作国 | 香港 |
製作年 | 2003年 |
公開日 | 日本 2005年4月16日 / 香港 2003年12月12日 |
上映時間 | 118分 |
ジャンル | ドラマ / サスペンス |
あらすじ
あの事件から10ヶ月。
警官として生きる道を選んだラウは、警察内に残る潜入マフィアたちを始末するため、眠れぬ日々を送っていました。
エリート警官ヨンが、大物密輸商人シェンと接触していたことを知ったラウは、ヨンをもうひとりの潜入マフィアと確信し、身辺を調べ始めます。
在りし日のヤンの姿に自分を重ね、運命を変えるための最後の闘いに向かうラウ。
しかしその背後には、真相を知る者の気配が忍び寄っていました—。
見どころ
「善人になりたかった」
ラウのこの言葉が、シリーズ3部作において重要なキーワードだったように思います。
交差する2人の運命の結末は意外なことに。
なお、3作目は前2作と大きく趣が変わり、精神世界と時系列が重なることでかなり複雑。そこに新キャラも登場するため、可能であれば吹替の字幕ありでの視聴をお勧めします。
ラウのモールス信号が意味するのは一体…。静かに地獄は続きます。
インファナル・アフェアの評価レビュー
香港映画の変遷
私の世代(40代)にとって香港映画といえばブルース・リーやジャッキー・チェン。いわゆるカンフー映画です。
80年代の香港は年間200本から300本に及ぶ世界でも有数の映画製作を誇る映画大国。ゴールデン・ハーベスト制作のコミカルなアクション映画にみんなが夢中になっていました。
その後、90年代になると、派手なアクションではなく斬新な映像に重きを置いたウォン・カーワァイが香港映画の代名詞になります。「天使の涙」や「恋する惑星」、「ブエノスアイレス」など映画好きの間で一大ブームを起こしました。
その後、1997年の香港返還を境にジャッキー・チェンなど有名な俳優や、ジョン・ウーをはじめ先述のウォン・カーワァイら香港を代表する監督はハリウッドに進出。
中国本土の影響で、自由な映画制作に及ぼすのではという懸念があったようです。
※当時は本土での上映には厳しかったものの、制作に関してはそこまでではなかったという話もあります。
そんな中、「少林サッカー」(2001)や「インファナル・アフェア」(2002)の登場は、まだまだ香港映画が健在なのを示してくれました。
それから長い月日が経ち、中国資本の映画がハリウッドでも増える中、香港制作の映画は激減。
激動の変遷を辿り、今も民主化運動などで行く末が不安視される香港において、映画大国の面影はないかもしれません。
それでも「少年の君」(2019年)が国内外で高評価を得るなど近年も香港映画の傑作は生まれており、日本でも単館系の映画館や映画チャンネルで近年の香港映画特集を組む流れは存在。
動きは静かでも香港映画は今後も目を離せません。
削ぎ落とされたストーリー
まだまだ香港らしさが残っていたと言われる2000年代初頭。
時々スマッシュヒットを出すものの、香港映画は下火だという先入観をもっていた私は、「恋する惑星」のトニー・レオンが出てるといった程度のちょっとした前情報のみで「インファナル・アフェア」を観にいったのでした。
なんだか仰々しいオープニングだなぁとちょっと白けた印象を感じながらの鑑賞。
まさか鑑賞後に大興奮、20年以上経っても面白いと言える傑作に出会っているとは、その時は思いませんでした…。
私が「インファナル・アフェア」の第1作目を絶賛する理由として、上映時間。
わずか101分です。
入れ替わりという設定かつ、そこまでの過程や周囲との関係などを丁寧に描けば余裕で2時間は超えそうです(ディパーテッドは150分)。
当初から3部作が決定していたとは言え、第1作だけで十分通用するこの削ぎ落としは素晴らしすぎます。
スピーディで飽きさせず、かつ緊張感と深みのある人物描写には本当に感動をしました。
何度でも言いますが、とにかく私の絶賛ポイントは「101分でまとめ上げた無駄のないストーリー」に尽きます。
宗教観
私はリメイクの「ディパーテッド」は申し訳ないですが全くといっていいほど評価していません。
なぜなら個人的にスコセッシは「タクシー・ドライバー」の方が圧倒的に作品賞に相応しいと思っていまして…。
また、作品のアプローチの仕方に乗れなかったというのが本音です。
原題である「The Departed」 とは「分かたれたもの」転じて「体から離れた死者の魂」の意。単純に、「死んでいったやつら」と訳せるようです。
そしてキャッチコピーは「男は、死ぬまで正体を明かせない」。
生きるか死ぬかに重きを置いているようで、苦しみを抱えて生きることは描いていないと感じました。
死生観なのか宗教観なのかわかりませんが、アプローチの仕方が違うので、同じストーリー展開でも深みに差が出ていたように思います。
「インファナル・アフェア」において深みが感じられるのは、仏教の無間道(無間地獄)とはなんぞやと観客に思わせるところから入ったからこそ。この宗教観が本作の印象を決定づけました。
この無間道というテーマがあるからこそ、第1作のエンディング後に思いを馳せ、第2作での人生の交差に移ることができます。
また2、3には罪の始まりと終わりなき罰が根底にあり、果てなき苦しみを描いたことで、インファナル・アフェア3部作を単なるマフィア映画にしていません。
フランシスフォード・コッポラの「ゴッドファーザー」3部作は、マイケル・コルレオーネの悲哀を中心に描いた言わずもがなの超名作。
「インファナル・アフェア」は苦しみから逃れられずに生きなくてはならない男の悲哀を描いています。
香港版ゴッドファーザーという表現は決して誇張ではなく、上質な香港ノワールとして今後も語り継がれるのではないでしょうか。
インファナル・アフェアは時が経っても語り継がれる名作
香港ノワールの大傑作「インファナル・アフェア」シリーズ。
緊張感溢れる展開に一時も目を離すことができません。運命に翻弄された二人の男の悲哀。
その終わりなき結末をぜひご覧ください!