映画「スポットライト 世紀のスクープ」は衝撃的なスキャンダルに対し、戦いを挑んだ人々を描いた社会派ドラマです。
巨悪に立ち向かう記者たちを名優たちが熱演!カトリック教会が隠し続けていた闇とは?
現在の日本におけるスキャンダルにも通じる部分があり、再注目、再評価されている「スポットライト 世紀のスクープ」。
衝撃の真実にたどり着くまでの、記者たちの奮闘ぶりに胸が熱くなること間違いなしです。
スポットライト配信サイト
映画「スポットライト」概要
スポットライト 世紀のスクープ
2002年1月、アメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」の一面に全米を震撼させる記事が掲載された。地元ボストンの数十人もの神父による児童への性的虐待。カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきた衝撃のスキャンダル。1,000人以上が被害を受けたとされるその許されざる罪は、なぜ長年にわたって黙殺されてきたのか。この世界中を驚かせた”世紀のスクープ”の内幕を取材に当たった新聞記者の目線で克明に描いた全米で絶賛を博す社会派ドラマ、それが『スポットライト 世紀のスクープ』である。
タイトル(原題) | スポットライト 世紀のスクープ(Spotlight) |
監督 | トム・マッカーシー |
脚本 | ジョシュ・シンガー トム・マッカーシー |
音楽 | ハワード・ショア |
キャスト | マーク・ラファロ マイケル・キートン レイチェル・マクアダムス リーヴ・シュレイバー ジョン・スラッテリー スタンリー・トゥッチ |
公開 | イタリア 2015年9月3日(ヴェネチア国際映画祭) アメリカ 2015年11月6日 日本 2016年4月16日 |
公式サイト |
神父による性的虐待を暴いた記者たちの実話
本作は、アメリカ・ボストンにおけるカトリック教会の神父たちによる児童への性的虐待と、それが数十年にわたって組織的に隠ぺいされてきたという恐るべき事実を暴いたボストン・グローブ紙の記者たちを描いたドラマです。
映画のモデルとなった「スポットライト」班。実際の事件と同じく、記者たちも実在しています。
- ウォルター・ロビンソン:マイケル・キートン、
- マイク・レゼンデス:マーク・ラファロ、
- サーシャ・ファイファー:レイチェル・マクアダムス、
- ベン・ブラッドリーJr.:ジョン・スラッテリー、
- マーティ・バロン:リーヴ・シュレイバー
インターネットは、ジャーナリズムに悪影響を与えてきたと言われていますが「ジャーナリズムのどこに光明を見いだすのか?」との質問にロビンソンさんは「調査報道。読まれるし、残すべきものです」と当時と変わらない熱意を語っていました。
また、現在でも、時間やお金をかけた調査報道は可能か、との質問にレゼンデスさんは「わが社では今でもそれが可能だ。確かに以前に比べ縮小した部分もあるが、今でも調査報道を続ける決意はあり、現在『スポットライト』チームは設立当初の2001年よりも大きくなった。前編集長マーティがチームを強化してくれたからだ。」
と語り、今後も取材を続けていくと語っていました。
※コメントは2015年の本作公開当時
主な受賞歴
映画賞 | 部門 | 受賞者 |
---|---|---|
第72回ヴェネツィア国際映画祭 | ブライアン賞 シルバーマウス賞 | トム・マッカーシー |
第19回ハリウッド映画賞 | 脚本賞 | トム・マッカーシー ジョシュ・シンガー |
第25回ゴッサム・インディペンデント映画賞 | 作品賞・特別賞 | 『スポットライト』 |
第50回全米映画批評家協会賞 | 作品賞 監督賞 | 『スポットライト』 トム・マッカーシー |
第68回全米脚本家組合賞 | 脚本賞 | トム・マッカーシー ジョシュ・シンガー |
第69回英国アカデミー賞 | 脚本賞 | トム・マッカーシー ジョシュ・シンガー |
第88回アカデミー賞 | 作品賞 脚本賞 | 『スポットライト』 トム・マッカーシー ジョシュ・シンガー |
「真のジャーナリズム」と「聖職者の性犯罪」を明らかにした本作。これまで触れにくかったテーマを題材に選んだことは異色の作品であり、アカデミー賞にノミネートされた際も作品賞受賞は難しいのではと危惧されていました。
しかし、蓋を開けてみればノミネート含め、数々の映画祭で受賞。2015年を代表する一本となりました。
2013年6月にトム・マッカーシーとジョシュ・シンガーは脚本を完成させ、2014年9月24日に本拠地のボストンでクランクインされました。2015年3月頃に撮影が終了すると、そこから約8か月かけて編集作業が行われ、2015年11月6日に北アメリカで限定公開された後、11月25日に拡大公開されています。
制作費はおよそ2000万ドル(約21億4千万円)に対して、興行収入は北米だけで3929万ドル(約42億円)、他の地域を合わせて合計6335万ドル(約67億8600万円)を売り上げました。拡大公開された初日には週末興行ランキングで8位に立っています。
ただ、日本ではあまり馴染みがないテーマかつ、アカデミー賞の受賞から時間が経ってからの公開だったため、4.4億円に止まっていました。
しかし、その後大手芸能事務所の元社長が捕食者だったと海外メディアに批判されるなど、日本でも性的被害のニュースが報道される事態になっており、本作が改めて注目される要因なっています。
あらすじ
2001年の夏、ボストン・グローブ紙の新しい編集局長にマーティ・バロンが着任します。
マイアミからやってきたアウトサイダー(よそ者)のバロンは、着任早々、ある神父による性的虐待事件を詳しく掘り下げる方針を打ち出します。
地元出身の誰もがタブー視するカトリック教会の権威。新聞社も例外ではありません。
「新聞社が教会を訴えるとは…」躊躇する意見に対しバロンは「単なる申し立てです」と意に介しません。
「教会は強硬に反撃するぞ。グローブの購読者の53%がカトリック信者だ」と教会だけでなく読者からの反発も予想される意見も
「興味を持ってもらえるでしょう」と一蹴。
このタブーに切り込む担当を命じられたのは、独自の極秘調査に基づく特集記事欄《スポットライト》を手がける4人の記者たちでした。
デスクのウォルター”ロビー”ロビンソンをリーダーとするスポットライトチームは、事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ねます。
そして大勢の神父が同様の罪を犯しているおぞましい実態と、その背後に教会の隠蔽システムが存在する疑惑を探り当てたのでした。
「君の探している文書はかなり機密性が高いね。これを記事にした場合、誰が責任をとる?」
「では、記事にしない場合の責任は?」
やがて9.11同時多発テロ発生による一時中断を余儀なくされながらも、チームは一丸となって教会の罪を暴くために闘い続けるのでした…。
映画スポットライトを視聴した感想レビュー
チーム一丸となって教会の罪を暴くために闘い続ける記者たちと、それに関わる人たちを描いた社会派ドラマです。
世界中に存在する教会、そして信仰をしている人々を場合によっては敵に回すことになってしまうセンセーショナルな事件を追い続ける姿に、一視聴者、一読者ではありますが、報道する責任とは何なのかを考えずにはいられません。
「大統領の陰謀」や「セルピコ」といった巨悪に立ち向かう正義を描いた作品は昔からありました。
そのいずれも共通しているのが熱量と高揚感。テーマだけを見ると暗く、娯楽とは言い難い内容です。
しかし、映画として見られるのは、真実に行き着くまでの高揚感と、そこへ向かう情熱的な人々に感情移入をしてしまうのです。
一方で、勇気を持って声を挙げた被害者の人たちを尊重できているか。安直に、この映画は面白いと言えない闇の深さと苦しみが全編を覆っているのも事実です。
ましてや例え身近にいなくとも、日本でも残念ながら、長い間蓋をされ続けていた恐ろしい事件がありました。劇中、教会の闇に気づきながらも報道をしてこなかった事実が語られます。
その後、マーティ・バロンの言葉にこの映画の魅力が詰まっているように思えました。
「私たちは闇の中を手探りで歩いている。突然、そこに光が差し、それが間違った道だったことがわかる。私がボストンに来る前のことは何も言えない。だが、君たちは素晴らしい仕事をしてくれた。この記事は読者に大きな衝撃を与えるだろう。こういう記事を書くことが、私たちのすべきことだ」
信じていたものに裏切られる衝撃、悲しみ、諦めに似た感情は、日本のニュースにも溢れています。
映画「スポットライト 世紀のスクープ」、真実を求めて巨悪に戦いを挑んだ人々の情熱に心を奪われてしまいました。
実話「スポットライト」と被害者のその後
虐待の被害者たちはほとんどが低所得者向けの公共団地に住んでおり、頼れる人も場所もなく、唯一行ける場所が教会だったそうです。
被害者はまだ若い子供たちで、彼らにとって神父は神同然でした。そこにいきなり虐待が起こってしまうのです。
精神への虐待は消えることがない
「これは身体的な虐待であるだけでなく、精神への虐待でもある」というセリフは、劇中にも“神父による性的虐待の被害者の会”の代表として登場するフィル・サヴィアノさんが強調していたことです。
もし自分が信仰心のある人間がいて、虐待されるという衝撃的なことが身に起きた場合、真っ先にすがり付くのは「信仰」ではないでしょうか。
しかし、虐待にあった被害者はその信仰、信頼を取り上げられてしまうことになります。すがるものがなく、神はいないも同然。
子供にとっては神父=神であり、その神に残虐極まりなく裏切られてしまうと、飲酒やドラッグに走ったり、悪事を働いたりしてトラブルを起こすようになってしまう事例が多いと言われています。
人生の道から逸れてしまいながらもなんとか生き抜こうとしている人々を“サバイバー(生存者)”と呼ぶと劇中でもありました。
精神障害を受けながら前に進もうと一度死んだ後の新しい魂で生き抜こうとしています。
生き抜くことが出来なかった犠牲者もいる
一方で、生き抜くことのできなかった犠牲者も多いのも事実です。
劇中のインタビューシーンでジミー・ルブランが見事に演じているパトリック・マクソーリーさんもその一人。
このストーリーが明るみに出た2年後に、麻薬の過量摂取で亡くなりました。
何とかして生き抜こうと、この問題に関しての運動にも参加し、ニュースが報道された時も積極的に発言。
人々も彼の話に耳を傾けていたといいます。彼は治安の悪い地域にある公共団地出身の貧しい子供時代を過ごし、『子供のときに性的虐待を受けた』と恐れずに真実を話していました。
街の人たちは仲間として彼を受け入れ、耳を傾けたそうですが、生き抜くことはできませんでした。マクソーリーさんの件は、ほんの一例に過ぎません。
被害者たちのその後を知れば、これがいかに非道な犯罪なのかが一層強く感じられます。
カトリック教会の反応
ボストン・グローブの記事を発端に、教会の上層部が不祥事の発覚を恐れ事件を起こした人物を異動させるなど、問題を隠蔽してきたことが判明すると、カトリック教会の対応が厳しく批判されました。
これにより、2006年に教皇ベネディクト16世は、今後同様の問題が起きた場合は厳正に処断すると宣言。
このような罪を犯すことはもちろん宗教的・社会的にも許されない上に、隠すことも大きな罪になるとはっきり述べています。しかし、その後も教皇・カトリック教会による対応に批判は止みませんでした。
その後、映画「スポットライト」が公開されると、バチカン放送のコメンテーターは映画を「誠実」「力強い」と讃え、『グローブ』紙の報道こそが米カトリック教会に「罪を完全に受け入れ、それを公に認め、すべての責任を取る」ことを促したのだと述べています。
バチカン放送の電子版を担当しているルカ・ペレグリーニは映画を讃え、
「ボストン大司教区のカトリック教会の基盤を崩壊に陥れたのは、テロ攻撃ではなく、とどまるところを知らない真実の力だった。事実、最も純粋な召命の形を示して見せたのは、紛れもなく『ボストン・グローブ』の数名の有能なジャーナリストたちである。その召命とは、事実を探し出し、情報源を調べ上げ、コミュニティと街のために自らを正義のパラディンとすることだった」
と記しています。
2016年2月には聖職者による性的虐待に関するバチカンの委員会で映画が上映されました。
バチカンの日刊紙『オッセルヴァトーレ・ロマーノ』は本作のアカデミー作品賞受賞を受け、「反カトリック的な映画ではない」とし
「同作は、敬虔な人々がこうした恐ろしい現実の発見に対峙したときの衝撃と絶大な痛みを表現することに成功している」とするコラムを掲載しています。
アメリカに限った話ではない
世界中を揺るがしたカトリック教会の闇。
タブー視され報道されないといったことは、アメリカに限らず日本でも似たような出来事が起こっていました。
特に大手芸能事務所の事件はこの映画の内容と類似しているように思われ、改めて本作が注目を浴びているようです。
公開後時間が経った現在でも「スポットライト 世紀のスクープ」は、ずっと臭いものに蓋をしてきた風潮に風穴を開ける渾身の一作として、多くの人の心に響いているのではないでしょうか。
スポットライト配信サイト
映画「スポットライト」は上記の動画配信サイトで取り扱いがあります。
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